2011-01-01から1年間の記事一覧

『全身翻訳家』(鴻巣友季子著、ちくま文庫)を読む。 池澤夏樹個人編集の世界文学全集ではヴァージニア・ウルフの『灯台へ』を翻訳した著者のエッセイ集。これを読むとやっぱり翻訳家って言語感覚が鋭いなあと感心する一方で、やっぱりおかしな人種だなあと…

『スプーンと元素周期表』(サム・キーン著、早川書房)を読む。 『世界で一番美しい元素図鑑』を楽しんだ後、書店で見つけて購入した。本書の冒頭で著者は幼い頃壊してしまった体温計からこぼれた落ちた水銀の不思議な魅力から元素の奥深い世界が広がってい…

『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラー著、早川書房)を読む。 ハードボイルドの古典を村上春樹訳で読んだ。ミステリーはあまり読まないし、ハードボイルドとなるとなおさらなのだけど、村上春樹が訳しているのと、先に読んだ『生き方と哲学』の…

『生き方と哲学』(鬼界彰夫著、講談社)を読む。 著者のウィトゲンシュタインについての著作を以前読んだことがあるので、手に取った本。題名のとおり生き方について考えるとはどういうことかを真っ向から問う。著者はある対象について考える態度に二つある…

『利他学』(小田亮著、新潮選書)を読む。 直接的には自分の利益にならない行動をなぜ行うのかということ進化生物学の視点から考察する本。自分の適応度を下げる利他行動の受け手が血縁者である場合は、その行動が進化する可能性があるというハミルトンの法…

『宇宙は本当にひとつなのか』(村山斉著、講談社ブルーバックス)を読む。 最新宇宙論入門という副題があり手にとった本。前半の話題の中心は宇宙が暗黒物質に満ちているということで、観測結果からどうしてそういう解釈がなされているかをやさしく順序だて…

『漱石 母に愛されなかった子』(三浦雅士著、岩波新書)を読む。 夏休みの課題図書に必ずあったせいか、夏になると漱石の作品やそれに関連する書物を読みたくなる。そこで今回読んだ本。母に愛されているかどうかという根源的な懐疑に苛まれていた漱石とい…

『資生堂という文化装置』(和田博文著、岩波書店)を読む。 『戦前昭和の社会』(講談社現代新書)が面白かったところに出版されたので、大部な本だったが購入。 副題に1872-1945とあるように、明治五年に資生堂が洋風調剤薬局として開業されてから敗戦まで…

『犯罪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著、東京創元社)を読む。 ベルリンで刑事事件弁護士としても活動しているという作家の犯罪にまつわる短編集。11の物語が収められているが、トリックや推理が主題ではない。犯罪を犯した人間が主題であるが、…

『経済成長は不可能なのか』(盛山和夫著、中公新書)を読む。 ピンチの時にはチャンスがあるとすれば、震災後の日本にも経済成長のチャンスはあるのか。デフレに財政難、円高、少子化という四重苦を抱えた日本への処方箋を示した本。著者は行財政改革でのム…

『世界で一番美しい元素図鑑』(S.グレイ著、N.マン写真、創元社)を読む。 図鑑が子供の頃から好きだった。でも年をとるにしたがい見ることが少なくなるのも図鑑という本だ。本書は忘れかけていた図鑑を繰る胸のわくわく感を呼び覚ましてくれる。しかも元素…

『大腸菌』(K.ジンマー著、NHK出版)を読む。 表題のとおり、この本の主人公は大腸菌・・・一つの名前でこう呼ばれるけれど本書の中でE.コリ君が見せる顔は実に時間的にも空間的にも幅広い。遡ればE.コリの祖先とサルモネラの祖先が分岐したのは恐竜が栄えてい…

『利他的な遺伝子』(柳澤嘉一郎著、筑摩選書)を読む。 人が自分を犠牲にする、自分の利益を省みない行動をとるのは何故なのかという問いに対して遺伝学者である著者の考えを平易に述べた一冊。冒頭にアーミッシュの子どもが暴漢に対してとった自己犠牲的行…

『戦前日本の「グローバリズム」』(井上寿一著、新潮選書)を読む。 『戦前昭和の社会 1926-1945』(講談社現代新書)が面白かったことと、本書がその第二部であること(第三部は講談社選書メチエとして近刊とのこと)から手に取った本。一般の印象とは異な…

『頭のでき』(リチャード・E・ニスベット著、ダイアモンド社)を読む。 『木を見る西洋人、森を見る東洋人』で有名なアメリカの心理学者による、知能は遺伝よりも環境によって規定されると主張する本。知能を規定する要因として遺伝も環境もともに重要であ…

『感覚の幽い風景』(鷲田清一著、中公文庫)を読む。 表題にのように”幽”が使われているように、この”くらさ”とは境界線がはっきりしない”くらさ”である。著者はさまざまなな感覚にまつわること(視線や声、肌触りなど)をめぐって考察をしていく。そして外…

『武士道』(相良亨著、講談社学術文庫)を読む。 スポーツの世界大会で日本人選手が”サムライ”と呼ばれたり、今度の震災で日本人の冷静な行動が武士道と結びつけられて報道されたりしていたが、武士道とはそもそもどんなものなのかと思い手にとった本。 著…

『内臓の発見』(小池寿子著、筑摩書房)を読む。 西洋美術で描かれているさまざまな身体、臓器をめぐるエッセー集。中世からルネサンス期の絵画が中心となるので、キリスト教にまつわるエピソードが多く紹介されている。研究書ではないので、キリスト教にお…

『ギリシア・ヘブライの倫理思想』(関根清三著、東京大学出版会)を読む。 西洋の倫理思想の淵源である古代ギリシアとヘブライに遡り、それぞれの特徴を明らかにしつつ、両者に共通する点を考察していく書。著者は両者に共通するものとして、「我々が我々を…

『敗北を抱きしめて 下』(ジョン・ダワー著、岩波書店)を読む。 下巻は東京裁判や憲法制定を巡っての記述が続く。この話題は他の歴史書でも取り上げられる戦後史の焦点であるが、本書であらためて知ったのは当時の言論や報道統制の厳しさだった。今でこそ…

紅を引くなまめかしさは雨のせい鏡の奥の静けさやよし 肌寒き雨の五月の週末の人恋しさを紅茶に溶かす飲み残す茶の澱ほどの思い出も残らぬものか時過ぎ去れば手に残る碗のぬくもりは雨の夜あなたがくれたやさしさに似る 褐色の湯に踊る茶葉眺めつつ昇天堕落…

『敗北を抱きしめて 上』(ジョン・ダワー著、岩波書店)を読む。 日本は未曾有の震災に見舞われ、「戦後」ならぬ「災後」という言葉も出てきた。ならば時代が一変した「戦後」の姿はどうだったのかをもう一度知りたくて手に取ったのがこの本。著者は努めて「…

『不安定からの発想』(佐貫亦男著、講談社学術文庫)を読む。 面白そうな題名だと思って手に取った本だが、内容は飛行機の設計思想に関わるもの。前半は世界で初めて友人動力飛行機の飛行に成功したライト兄弟を巡る話。彼らがどうして成功したかについての…

幼き日海辺で語った冒険の帆は今いずこ日暮れは近しパンプスは脱いで明日へと翔びたとう飾りなき身で空どこまでも涙ふき束ねた髪を解きつつ万緑の野に身を染めていく涅槃へと至る眠りに肉体は色溶け空の骸となりぬ 戴冠の妃を真似し花の宴愛する王の口づけを…

失った文庫のように片隅で蘇り待つ記憶のページ永久(とわ)誓う愛の言葉の原石はやがて輝く宝石となる密やかに獲物を狙い夜を待つわれらはともに爪持つ族(うから)風に舞い命を運ぶ種子たちよ愛の言葉も彼へ届けて 『「余剰次元」と逆二乗則の破れ』(村田…

『女の老い・男の老い』(田中冨久子著、NHKブックス)を読む。 副題に「性差医学の視点から探る」とあるように、医学的な性差、主に性ホルモンの男女差からみた老化現象について解説した本。医学的問題としては、更年期に始まり、認知症、虚血性心臓病、骨…

『日本語の語源』(阪倉篤義著、平凡社ライブラリー)を読む。 著者は大正六年生まれで平成六年に亡くなられている国語学者で語構成論という分野を切り開いた学者と解説にある。その著者による語源論ということで、まず語源をどう考えるかという点から論は始…

『乾燥標本収蔵1号室』(R.フォーティ著、NHK出版)を読む。 『生命40億年全史』、『地球46億年全史』の著者のフォーティ先生が大英自然史博物館の裏の裏まで案内してくれる一冊。冒頭に著者曰く、「人生は記憶という名の館長が管理するコレクションで成り…

『絶叫委員会』(穂村弘著、筑摩書房)を読む。 言葉にはそれを使う人のそれぞれの記憶があり、世界がある。その世界がそれぞれ一致している保証はもとよりない。私たちは自分の言葉の世界が相手と同じものだと疑うことなく、日々言葉を使って暮らしているが…

『選択の科学』(S.アイエンガー著、文藝春秋)を読む。 人生において選択しないという選択はない。選択という行為について心理学、生物学、文化人類学的考察に基づきながら考察した本。著者は商品選択に関わる実験(第6講で紹介されているジャムの選択肢が…