『スプーンと元素周期表』(サム・キーン著、早川書房)を読む。
『世界で一番美しい元素図鑑』を楽しんだ後、書店で見つけて購入した。本書の冒頭で著者は幼い頃壊してしまった体温計からこぼれた落ちた水銀の不思議な魅力から元素の奥深い世界が広がっていったことを語り、元素周期表は、「素晴らしくて巧みで醜い人間のあらゆる側面が、そして人間と物理世界とのやりとりが反映されている」と言う。最初にこの”醜さ”というのが理解できなかったのだが、読み進めると科学史上どこでもある発見の先陣争いがこの周期表の随所に刻まれれているということが分かった。元素の物理化学的知識の他に類をみない豊富さはもちろんだが、元素発見をめぐる人間ドラマに圧倒される。その中でもプロトアクチニウムの発見に関わったオットー・ハーンとリーゼ・マイトナーノーベル賞受賞選考と元素命名の事件は印象的だった。
その他には毒ガス製造、染料と感染症治療薬、日本の公害病、パーカー万年筆のペン先、アルミニウムが金より高価だったことがあること、紙幣の偽造防止技術などなどの話題が盛りだくさんである。
副題に「最も簡潔な人類史」への手引きとあるけれど、内容が多岐にわたり盛りだくさんだからこの副題はちょっと違うのではと思った次第。

スプーンと元素周期表: 「最も簡潔な人類史」への手引き

スプーンと元素周期表: 「最も簡潔な人類史」への手引き