読書

『人はみな妄想する』(松本卓也著、青土社)を読む。 神経症と精神病の鑑別診断という点に焦点をあてて、ラカンの思考の変遷を丁寧にたどる内容でした。この二つの疾患を鑑別するという臨床上重要かつ実践的な視点がラカンと著者で共有されているため、ラカ…

『気候変動を理学する』(多田隆治著、みすず書房)を読む。 同社から刊行されている『植物が出現し、気候を変えた』を読んで、地質時代の気候変動のことを知ろうと思って読みました。著者の専門は、古気候学、古海洋学で最近はタクラマカン砂漠の黄砂の研究…

『植物が出現し、気候を変えた』(D・ビアリング著、みすず書房)を読む。 著者はシェフィールド大学の動植物学部門の教授で、専門は植物学と古気候学ということで、話題はカンブリア紀から始まり、新生代に至るまでの植物の進化と気候を含めた地球環境の変…

『暴力の人類史』上・下(スティーブン・ピンカー著、青土社を読む。 上巻580ページ、下巻652ページという大部な書籍で、邦題のとおり太古から現代までの暴力についての歴史を取り扱った本ですが、原題は『The better angles of our nature』とあるように、…

『モラルの起源』(クリストファー・ボーム著、白揚社)を読む。 ヒトの道徳観がどのように進化してきたのかを考察する本を昨年末から読みました。著者は文化人類学が専門で、ヒトの利他性がどのように進化したのかについて独自の仮説を提唱しています。血縁…

『破壊する創造者』(フランク・ライアン著、早川書房)を読む。 原題は『Virolution』で、ウイルスと進化を合わせた造語になっているように、ウイルスが生物の進化に大きく寄与していることが中心に取り上げられています。著者は医師でもあるのですが、ウイ…

『〈わたし〉はどこにあるのか』(マイケル・S.ガザニガ著、紀伊國屋書店)を読む。 書名のような問いを問われると何を当たり前のことをと問われそうですが、本書はそうした反問が実は当たり前のことではないということを近年の脳科学の知見から説明してい…

『見てしまう人びと』(オリヴァー・サックス著、早川書房)を読む。 幻覚というと最近の危険ドラッグの報道もあり、狂気、凶暴、危険という連想が働くと同時に正常な人にとっては無縁なものだと思われています。しかし本書は幻覚という現象が正常と狂気を分…

『なぜ生物時計はあなたの生き方まで操っているのか?』(ティル・レネベルク著、インターシフト) 単細胞生物から哺乳類までが持っている体内時計についての興味深いと同時に現代社会の暮らし方について考えさせる一冊です。この体内時計は誰もが持っている…

『低地』(ジュンパ・ラヒリ著、新潮社)を読む。 同じクレストブックスで『停電の夜に』を読んでから私がお気に入りになった作家の長編小説です。カルカッタ郊外生まれの兄弟スバシュとウダヤンがゴルフクラブに忍び込む場面から物語は始まります。長じて二…

『言論抑圧 矢内原事件の構図』(将基面貴巳著、中公新書)を読む。 東京帝国大学教授の矢内原忠雄が著した論文『国家の理想』が引き金となった退職は、言論の自由の抑圧の史実とされていますが、当時の状況に即したとき、実際にどのうような事件だったのか…

『あなたのなかの宇宙』(ニール・シュービン著、早川書房)を読む。 前著『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』がなかなか面白かったので、購読しました。前著ではわたしたちのボディプランに色濃く進化の刻印が残っていることを魚類の生体システムと比較する…

『 協力と罰の生物学』(大槻久著、岩波科学ライブラリー)を読む。 私たちの身の回りのさまざまな異なる生物に見られる協力と罰というシステムにはどのうようなものがあり、それらが進化してきた仕組みについて解説した本です。協力と罰というシステムを採…

『フードトラップ』(マイケル・モス著、日経BP社)を読む。 コーラやハンバーガーがなぜ止められず食べ続けられているのか、本書はそうした”依存性”のある食品に食品会社が仕込んだ「糖分」「脂肪」「塩分」の罠について、膨大な資料に基づいて解説してくれ…

『禁欲のヨーロッパ』(佐藤彰一著、中公新書)を読む。 副題に「修道院の起源」とあるので、キリスト教の話から始まるかと思って開いてみると、第一章は古代ギリシャとローマの養生法と題されていて、禁欲の社会心理的動機がキリスト教的価値からくる宗教的…

『おいしい穀物の科学』(井上直人著、講談社)を読む。 私たちが毎日食べている米、小麦、トウモロコシなどの穀類についてさまざまな科学的視点から解説した本です。農芸化学だけでなく地理学や醸造学、文化人類学など実に学際的な点から書かれてあり、慣れ…

『死と復活』(池上英洋著、筑摩選書)を読む。 表題を巡る旅は一枚の絵から始まります。作者不詳の絵で祭壇の前に立つ一人の聖人の前には赤ん坊が二人。一人はその聖人に両手を合わせて祈り、もう一人は腹部に十字の傷を負って倒れています。こうした主題で…

『美味しさの脳科学』(ゴードン・M・シェファード著、インターシフト刊)を読む。 傍題に「においが味わいを決めている」とあるように味覚、とくに私たち人間が食事を楽しむ際に嗅覚系が重要な役割をもっていることを脳神経科学の立場から解説した本です。…

『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(ジョナサン・ハイト著、紀伊國屋書店刊)を読む。 進化心理学に基づいて私たちの道徳とはどういうものかを示し、どこの社会にもみられる保守とリベラルの違いがどこにあるのかを分析していく本。著者が批判的にみるのは…

『進化の弟子』(キム・ステレルニー著、勁草書房)を読む。 人間の進化、特に人間独特の認知機能の進化において何が重要であり、どのように進化したのかという問いに対して、遺伝的な基盤に基づきつつも学習、協力といった社会的環境の重要性を説いています…

『哲学入門』(戸田山和久著、ちくま新書)を読む。 題名がたいへん地味で、過去に同名の書籍があるので、ああまた古代ギリシャから始まって・・・と思わずに手に取ってください。哲学の歴史をたどって蘊蓄をたれる入門書とはひと味も二味も違います。唯物論…

『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ著、柏書房)を読む。 1450年頃グーテンベルクが活字による印刷を行い、聖書を初めとした多くの書物の情報が普及し、やがて宗教改革を生む下地になるというのは世界史の重要なポイントですが…

『借りの哲学』(ナタリー・サルトゥー=ラジュ著、太田出版)を読む。 「借り」について考察するというちょっと変わった題名の哲学の本を手にとってみました。もちろん贈与や交換については様々な論考がありますが、著者は貸借によって生じる「負い目」まで…

『人間と動物の病気を一緒にみる』(B.N.ホロウィッツ、C.バウアーズ著、インターシフト)を読む。 獣医学と医学、どちらも生物の疾患を目的とする応用医学なのに両者の交流はまったくといってよいほどありません。飼い主は自分の病気を獣医に相談することは…

『殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?』(P.シーブライト著、みすず書房)を読む。 なんとも刺激的な表題ですが、原題は『他人どうしの社会 経済的生活の自然史』です。「サル」ということが掲げられているように、私たちホモ・サピエンス・サピエンス…

『シグナル&ノイズ』(ネイト・シルバー著、日経BP社)を読む。 多岐にわたる大量のデータ(ビッグ・データ)を扱うことが可能になって情報の重要性がますます声高にとなえられていますが、そのデータを読み解く上で確率論的思考が欠かせないことを説いた…

『ささめく物質 物活論について』(奥村大介著、現代思想vol42.1:116-129,2014)を読む。 2014年を迎えて初めて読んだ論文です。物質を文明の力で馴致してきたはずの私たちが、思いがけなくもその物質たちに牙を向けられた震災から今年で三年になります。「…

『宇宙が始まる前には何があったのか?』(ローレンス・クラウス著、文藝春秋)を読む。 本書は最近二十年間の宇宙論についての進歩を解説し、今宇宙のどのようなことまでが明らかになっているのかを教えてくれますが、それ以上に著者の科学者としての姿勢が…

『人質の朗読会』(小川洋子著、中央公論社)を読む。 2012年の本屋大賞を受賞した小説を1年遅れ(発刊からは2年)で読む。海外ツアーに行った邦人8人が現地のゲリラによって人質になり、そのまま帰らぬ人々となった事件の後で、公開された8人の朗読会の記…

『記憶のしくみ』(ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル著、ブルーバックス)を読む。 記憶は脳のどこでどのような仕組みでつくられるのかを基本的なことから最先端のことまで解説した本です。著者の一人、エリック・R・カンデルは、アメフラシを…