2011-01-01から1年間の記事一覧

『バイオバンク』(F.ベリヴィエ/C.ノワヴィル著、文庫クセジュ)を読む。 人間の生物試料と関連データを収集・貯蔵する組織についての概説書。「バイオバンク」という用語自体はまだ安定したものではない(「ビオテーク」や「生物資源センター」などともい…

『メモリー・ウォール』(アンソニー・ドーア著、新潮社)を読む。 新潮クレスト・ブックスシリーズから出ている短編小説集。同シリーズにはすでに著者の『シェル・コレクター』が収められている。この本も気にしつつも未読でいた。表題は、冒頭に収められて…

『デスマスク』(岡田温司著、岩波新書)を読む。 死顔を残すという行為がいつの頃からどんな目的でされてきたのかを西洋美術の作品を取り上げながら考察していく本。まず古代ローマでは先祖の肖像は「イマギネス」と呼ばれて、葬儀や葬列などに使われ、それ…

『科学哲学』(アレックス・ローゼンバーグ著、春秋社)を読む。 科学は世界についての正しく、確実な知識をもたらしてくれ、科学的研究は世界の真実の姿へと前進する営為である。どういう根拠でそういえるのか。本書は科学哲学の入門書という立場から、科学…

『人は原子、世界は物理法則で動く』(マーク・ブキャナン著、白揚社)を読む。 個々人をみると複雑でどれも同じ人はいない。けれどもそうした特徴は捨象して、人間どうしが相互作用をすることによって現れるパターンをみれば、そこには驚くほど単純な法則で…

『青の物理学』(ビーター・ペジック著、岩波書店)を読む。 「空はなぜ青いのか」という誰もが抱く疑問にどのような説明がなされ、その謎に対して科学者たちがどう取り組んできたかを描いた本。古くはプラトンやアリストテレスが、そしてダ・ヴィンチも説明…

『複雑で単純な世界』(ニール・ジョンソン著、インターシフト)を読む。 複雑性科学について一般読者向けに平易な例を用いて解説し、その応用範囲の幅広さを解説した本。冒頭で複雑系という系の条件として(1)系内に相互作用する多数の要素(エージェント…

『流れ』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。 第一部『かたち』につづく自然が創り出すパターンについての本。第二部の冒頭では流れという自然現象が研究に値することを示したレオナルド・ダ・ヴィンチから始まる。複雑な流体の力学はあまりにも先駆…

『スピノザの方法』(國分功一郎著、みすず書房)を読む。 ある物事を知るのにある方法を使って正しい解答に到達できるという主張に対して、私たちはその真偽を問うことができるし、その主張が正しい場合、どういう方法を使うのかと問うことができる。スピノ…

『神は数学者か?』(マリオ・リヴィオ著、早川書房)を読む。 『黄金比はすべてを美しくするか?』の著者が、数学と私たちが経験し観察する世界との関係を考察する刺激的な本。数学は人間が操る論理でありながらどうしてこうも物理的実在の対象にうまく適合…

『神と国家の政治哲学』(マーク・リラ著、NTT出版)を読む。 西欧における政治と宗教(キリスト教とユダヤ教)の関係、政治はいかにして神学と格闘し、分離しようとしたかを辿る著作。17世紀から起こった新しい哲学によって神の啓示や宇宙論的な思索によら…

『建築のエロティシズム』(田中純著、平凡社新書)を読む。 「建築を成り立たせているものは、物体であり空間であると同時に論理である。そして性欲ではなくエロティシズムを生み出すのは、論理以外の何ものでもない。だから、建築のエロティシズムはその論…

『黄金比はすべてを美しくするか?』(マリオ・リヴィオ著、早川書房)を読む。 ユークリッドが外中比として定義したいわゆる黄金比から始まりフラクタル幾何学に至るまで、いたるところに顔を出すΦという不思議な数を巡る数学エッセイ。「黄金分割」という…

『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎著、朝日出版社)を読む。 たとえば五十年前の人たちと今を比べてみる。経済的には確かに豊かになっている。けれども今なぜかこの豊かさを素直に喜べないし、未来も明るくない。これはなぜかという問いから本書の旅は始まる…

『かたち』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。 自然の中にはどのようにして創られたのかと感銘を受ける造形美が見つかる。太古から人はそれを説明するために神の意志をそこに見いだし時には崇拝の対象となった。やがて生物における造形美は、ダーウ…

『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』(G・ギーゲレンツァー著、インターシフト)を読む。 私たちは毎日の生活で直感を働かせている。お店で商品を選ぶとき、恋人の嘘を見抜くときなどなど。こんな直感は客観的に評価しにくいからしばしば「女の直感」とい…

[読書

『脳の中の身体地図』(サンドラ・ブレイクスリー、インターシフト)を読む。 私たちの脳は、無意識のうちに自分の身体と身体周囲の空間をマッピングしており、さまざまな状況に応じて可塑的であること、そして拒食症や幻肢などの病理はもちろん、スポーツで…

『ウェットウェア』(デニス・ブレイ著、早川書房)を読む。 私たちを含む多細胞生物を構築するひとつの細胞は、様々な蛋白質がぎっしり詰まった論理回路であり、それ自体きわめて精妙な装置(著者のいうウェットウェア)であることを語る本。生細胞内で大量…

『友達の数は何人?』(ロビン・ダンバー著、インターシフト)を読む。 言語の起源について、グルーミングに代わる効率的なコミニュケーション手段として登場したものだという説を提唱している進化心理学者による楽しいエッセイ。冒頭から脳は一雄一雌関係を…

『スーパーセンス』(ブルース・M・フード著、インターシフト)を読む。 副題は「ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている」とあるので、あやしげなトンデモ本と誤解される向きもあるかもしれないが、まっとうなポピュラーサイエンス本であり、本書は人間…

『旅の冒険』(マルセル・ブリヨン著、未知谷)を読む。 ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、マキャヴェリ、レンブラント、ゲーテ、モーツァルトなどの伝記作品を残して作家の幻想小説短編集。 本書は1942年発刊の小説集から五編を選んで訳出されたものというこ…

『ラカン派精神分析の治療論』(赤坂和哉著、誠信書房)を読む。 精神分析の臨床経験に即しながら、ラカン派の精神分析の理論と技法を解説する本。ラカン派の本はどちらかというと理論偏重なものが多い印象だが、本書は実践例が適切に織り込まれており、患者…

『絶滅危急季語辞典』(夏井いつき著、ちくま文庫)を読む。 『絶滅寸前季語辞典』に続く第二弾。一見しただけではどの季にあたるかはもちろん、どういうものを指示しているのかもよくわからないような季語が並べられ、これでもかと奮闘して作句する著者たち…

『ミシェル・フーコー』(重田園江著、ちくま新書)を読む。 『監獄の誕生』を取り上げて、フーコーの思考スタイルをみていく入門書。著者が最初に釘をさしているように「近代の規律について解説した本」ではない。著者の解説を聞きながらフーコーの作品を鑑…

『魂の変容』(中畑正志著、岩波書店)を読む。 心のはたらきについての諸概念の成立や変遷の過程を丹念に辿りながら、内なる心という概念がどのようにして形成されたかを「オブジェクト(対象)」、「感情」、「ファンタシアー(想像力)」、「志向性」とい…

『隠れていた宇宙』(ブライアン・グリーン著、早川書房)を読む。 宇宙(ユニバース)は本当に一つだろうか? この素朴だけど誰も本当の答を知らない疑問、ユニバースという語義からすると矛盾する質問に対して著者は語り続ける。インフレーション理論から…

『数学でわかる100のこと』(J・D・バロウ著、青土社)を読む。 著者は日常生活で私たちが何となく見過ごしてしまっていることから新鮮な驚きを取り出してくれる。まるで帽子の中から鳩を出すように。種はもちろんある、数学という種が。例えば、車のことを…

『ローマ人の物語 ローマ世界の終焉』(塩野七生著、新潮文庫)を読む。 毎年文庫化されるこのシリーズを読み続け、とうとう最後の物語となった。著者が最初に書いている、「亡国の悲劇とは、人材の欠乏から来るのではなく、人材を活用するメカニズムが機能…

『語りえぬものを語る』(野矢茂樹著、講談社)を読む。 ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』、『哲学探究』を軸に展開していく哲学エッセイ。分析哲学的論理が展開されるかというとさにあらず、むしろ分析哲学のタイルが敷き詰めきれない隙間にこそ重要…

『ぼくらはそれでも肉を食う』(ハロルド・ハーツォグ著、柏書房)を読む。 動物と人間の倫理的関係はどうあり、どうあるべきなんだろうかということについて考察した本。動物には人間とは基本的な違いはないとして動物にも権利を認めようと論じる本もあるが…