『青の物理学』(ビーター・ペジック著、岩波書店)を読む。
「空はなぜ青いのか」という誰もが抱く疑問にどのような説明がなされ、その謎に対して科学者たちがどう取り組んできたかを描いた本。古くはプラトンアリストテレスが、そしてダ・ヴィンチも説明を試みたことが紹介されるが、話ががぜん盛り上がるのは1800年代になってから。空気中のどんな粒子が青さの原因なのだろうかがより具体的に探究された始める時である。本書の原題『Sky in a bottle』にもあるように地上の瓶の中に青空を封じ込める実験が当時いくども行われたという。天文学者のジョン・ハーシェルは1845年にキニーネ溶液にある角度で光を通すと「美しい天上の青」が見えることを記録している。ハーシェルやストークス、ケルヴィン卿とジョン・チンダルの間で取り交わされた往復書簡を読むと、当時の活き活きとした研究活動が見えてくる。チンダルの洞察に数学的な方法を駆使してレイリーはその現象を解明する。さらにこの研究が精確なアボガドロ数の導出と非常に関係していることは本書で初めて知った。とりわけ興味深かったのは、当時必ずしも広く支持されていなかった原子論がレイリー以降物理的実在として受容されたという経過だ。話題はさらに宇宙の”明るさ”へと広がる。著者はこの謎の解明の旅を締めくくるにあたりこう述べる。

青空の謎を解くための道のりは、小さな世界へと向かう旅である。なぜなら、もしも原子が実在しなかったなら、空は青色にはなりえなかったのだから。空に目を向けるとき、わたしたちは原子論の正しさを証明する証拠のうち、もっとも美しいものを見ているといえよう。そしてまた、青空を探究する旅は、大きな銀河の世界へと向かい旅でもある。

空の青さの謎を求めて、ダ・ヴィンチもゲーテソシュールもチンダルも山に登ったというエピソード、そして当時登山は一般的でなく恐れられていたことなど、別な角度から見ても面白い。解説に盛り込まれた数式のバランスもよく、付録も面白い。さらに佐藤文隆さんの解説も秀逸。誰もが抱く疑問から物理学の真髄へと読ませる著者の力量は素晴らしい。今年初めに書店で見かけてずっと気になっていた本だったが、今年のうちに読めてよかった。

青の物理学――空色の謎をめぐる思索

青の物理学――空色の謎をめぐる思索