2014-01-01から1年間の記事一覧

『〈わたし〉はどこにあるのか』(マイケル・S.ガザニガ著、紀伊國屋書店)を読む。 書名のような問いを問われると何を当たり前のことをと問われそうですが、本書はそうした反問が実は当たり前のことではないということを近年の脳科学の知見から説明してい…

『見てしまう人びと』(オリヴァー・サックス著、早川書房)を読む。 幻覚というと最近の危険ドラッグの報道もあり、狂気、凶暴、危険という連想が働くと同時に正常な人にとっては無縁なものだと思われています。しかし本書は幻覚という現象が正常と狂気を分…

『なぜ生物時計はあなたの生き方まで操っているのか?』(ティル・レネベルク著、インターシフト) 単細胞生物から哺乳類までが持っている体内時計についての興味深いと同時に現代社会の暮らし方について考えさせる一冊です。この体内時計は誰もが持っている…

『低地』(ジュンパ・ラヒリ著、新潮社)を読む。 同じクレストブックスで『停電の夜に』を読んでから私がお気に入りになった作家の長編小説です。カルカッタ郊外生まれの兄弟スバシュとウダヤンがゴルフクラブに忍び込む場面から物語は始まります。長じて二…

『言論抑圧 矢内原事件の構図』(将基面貴巳著、中公新書)を読む。 東京帝国大学教授の矢内原忠雄が著した論文『国家の理想』が引き金となった退職は、言論の自由の抑圧の史実とされていますが、当時の状況に即したとき、実際にどのうような事件だったのか…

『怨霊とは何か』(山田雄司著、中公新書)を読む。 日本古来からある怨霊というものの歴史的変遷を三大怨霊(菅原道真、平将門、崇徳院)を中心に辿っていく本です。最初に霊魂がどのようなものかについて概説されます。人の魂は身体から遊離可能なものであ…

『あなたのなかの宇宙』(ニール・シュービン著、早川書房)を読む。 前著『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』がなかなか面白かったので、購読しました。前著ではわたしたちのボディプランに色濃く進化の刻印が残っていることを魚類の生体システムと比較する…

『 協力と罰の生物学』(大槻久著、岩波科学ライブラリー)を読む。 私たちの身の回りのさまざまな異なる生物に見られる協力と罰というシステムにはどのうようなものがあり、それらが進化してきた仕組みについて解説した本です。協力と罰というシステムを採…

『フードトラップ』(マイケル・モス著、日経BP社)を読む。 コーラやハンバーガーがなぜ止められず食べ続けられているのか、本書はそうした”依存性”のある食品に食品会社が仕込んだ「糖分」「脂肪」「塩分」の罠について、膨大な資料に基づいて解説してくれ…

『禁欲のヨーロッパ』(佐藤彰一著、中公新書)を読む。 副題に「修道院の起源」とあるので、キリスト教の話から始まるかと思って開いてみると、第一章は古代ギリシャとローマの養生法と題されていて、禁欲の社会心理的動機がキリスト教的価値からくる宗教的…

『おいしい穀物の科学』(井上直人著、講談社)を読む。 私たちが毎日食べている米、小麦、トウモロコシなどの穀類についてさまざまな科学的視点から解説した本です。農芸化学だけでなく地理学や醸造学、文化人類学など実に学際的な点から書かれてあり、慣れ…

『死と復活』(池上英洋著、筑摩選書)を読む。 表題を巡る旅は一枚の絵から始まります。作者不詳の絵で祭壇の前に立つ一人の聖人の前には赤ん坊が二人。一人はその聖人に両手を合わせて祈り、もう一人は腹部に十字の傷を負って倒れています。こうした主題で…

『美味しさの脳科学』(ゴードン・M・シェファード著、インターシフト刊)を読む。 傍題に「においが味わいを決めている」とあるように味覚、とくに私たち人間が食事を楽しむ際に嗅覚系が重要な役割をもっていることを脳神経科学の立場から解説した本です。…

『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(ジョナサン・ハイト著、紀伊國屋書店刊)を読む。 進化心理学に基づいて私たちの道徳とはどういうものかを示し、どこの社会にもみられる保守とリベラルの違いがどこにあるのかを分析していく本。著者が批判的にみるのは…

『進化の弟子』(キム・ステレルニー著、勁草書房)を読む。 人間の進化、特に人間独特の認知機能の進化において何が重要であり、どのように進化したのかという問いに対して、遺伝的な基盤に基づきつつも学習、協力といった社会的環境の重要性を説いています…

『進化という謎』(松本俊吉著、春秋社)を読む。 先日ちくま新書の『哲学入門』(戸田山和久著)を読んだ際、デネットやステレルニーの議論が出てきたのをきっかけに本書を読みました。第1章は、これまでの進化論を中心とした生物哲学の潮流をコンパクトに…

『哲学入門』(戸田山和久著、ちくま新書)を読む。 題名がたいへん地味で、過去に同名の書籍があるので、ああまた古代ギリシャから始まって・・・と思わずに手に取ってください。哲学の歴史をたどって蘊蓄をたれる入門書とはひと味も二味も違います。唯物論…

『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ著、柏書房)を読む。 1450年頃グーテンベルクが活字による印刷を行い、聖書を初めとした多くの書物の情報が普及し、やがて宗教改革を生む下地になるというのは世界史の重要なポイントですが…

『借りの哲学』(ナタリー・サルトゥー=ラジュ著、太田出版)を読む。 「借り」について考察するというちょっと変わった題名の哲学の本を手にとってみました。もちろん贈与や交換については様々な論考がありますが、著者は貸借によって生じる「負い目」まで…

『人間と動物の病気を一緒にみる』(B.N.ホロウィッツ、C.バウアーズ著、インターシフト)を読む。 獣医学と医学、どちらも生物の疾患を目的とする応用医学なのに両者の交流はまったくといってよいほどありません。飼い主は自分の病気を獣医に相談することは…

『殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?』(P.シーブライト著、みすず書房)を読む。 なんとも刺激的な表題ですが、原題は『他人どうしの社会 経済的生活の自然史』です。「サル」ということが掲げられているように、私たちホモ・サピエンス・サピエンス…

『モンティ・ホール問題』(ジェイソン・ローゼンハウス著、青土社)を読む。 テレビ番組が発端になり数学者も間違えて議論になった確率の問題について、さまざまなバリエーションを考えながらベイズの定理や条件付確率を考える本。表題の問題は、以下のとおり…

『シグナル&ノイズ』(ネイト・シルバー著、日経BP社)を読む。 多岐にわたる大量のデータ(ビッグ・データ)を扱うことが可能になって情報の重要性がますます声高にとなえられていますが、そのデータを読み解く上で確率論的思考が欠かせないことを説いた…

『ささめく物質 物活論について』(奥村大介著、現代思想vol42.1:116-129,2014)を読む。 2014年を迎えて初めて読んだ論文です。物質を文明の力で馴致してきたはずの私たちが、思いがけなくもその物質たちに牙を向けられた震災から今年で三年になります。「…