『死と復活』(池上英洋著、筑摩選書)を読む。
表題を巡る旅は一枚の絵から始まります。作者不詳の絵で祭壇の前に立つ一人の聖人の前には赤ん坊が二人。一人はその聖人に両手を合わせて祈り、もう一人は腹部に十字の傷を負って倒れています。こうした主題で嬰児の復活の奇跡を描いた絵に加えて、狂気の母親が幼児を殺めて調理する(そしてその幼児は復活するのですが)というおぞましい絵画の伝統の謎を著者は追いかけていきます。キリストの復活というお馴染みのテーマの周囲には、聖遺物の崇拝やカニバリズムといったより土着的で根源的な宗教的精神があることを指摘し、聖体拝領における血と肉の解釈を巡る問題をみていきます。さらに不死と再生を巡って、聖杯伝説からエジプト神話まで話題が広がっていきます。第四章以降は子殺しを巡り異教や魔女に対する見方の変遷を見て、この狂気が古代ギリシャディオニソス神話に繋がっていることが明らかにされます。不思議な絵を巡ってキリスト教の伝統を中心にしたイメージの時間旅行を楽しめます。