『おいしい穀物の科学』(井上直人著、講談社)を読む。
私たちが毎日食べている米、小麦、トウモロコシなどの穀類についてさまざまな科学的視点から解説した本です。農芸化学だけでなく地理学や醸造学、文化人類学など実に学際的な点から書かれてあり、慣れない専門用語に少し戸惑うとこもありますが、日本ではなぜ小麦ではなく、米が主な穀物なのか、なぜそもそも米はこんなに白いのか、そして小麦のように粉にして調理しないのか、うるち米ともち米を日常でどうして使い分けるのかなどの疑問について、それぞれの穀類が作物として栽培されるときの特徴から解き明かしていきます。さらに精白米の栄養学的問題や、品種改良と栽培技術の話、遺伝子組み換え作物、米作と地球温暖化の問題、バイオエタノールの問題など私たちを取り巻く大きな問題についても触れられます。こうした様々な問題が、もとをただせば、生き延びていくために私たちの祖先が脈々と野生種を改良して今ある品種を開発してきた延長線上にあるのだと思うとき、人間の食に対する飽くなき情熱に改めて感動するのです。

おいしい穀物の科学 (ブルーバックス)

おいしい穀物の科学 (ブルーバックス)

『料理と科学のおいしい出会い』(石川伸一著、化学同人)を読む。
料理はさまざまな食材と調味料に様々な形で温度変化伴う化学反応を起こさせることに大きな比重がある操作です。料理が美味しく仕上がるかどうかは、こめる愛情もさることながら、科学的な視点をもっていればかなり役に立つということを教えてくれる本です。分子ガストロノミーと呼ばれる手法でミシュランの三つ星レストランを獲得したシェフの話を紹介し、科学技術を使って料理を創作するとはどういうものかを解説します。料理人が自らのレシピを公開し、情報を共有しさらに新しい味を創りだす方法論は、科学における情報公開と似ているという指摘にはなるほどと思いました。そして味わう側の人間の五感の科学的しくみと、脳がおいしさを感じるとはどういうことかを述べ、食感というものの重要性が強調されます。素材の側からは、水分子の挙動が料理に重要であること、香りを担う分子やメイラード反応などが解説されます。さらに調理道具の最先端の話やステーキやおにぎり、オムレツを究極おいしくするにはどういう方法があるのかが述べられます。
本文中の記事のおもしろさに加えて、コラムに取り上げられる試験管培養肉やフード3Dプリンターの話などびっくりするような話題も満載です。これを読んだからといってすぐにおいしい料理を作れるようになるわけではありませんが、新しい味に出会ったときにさらに楽しんで味わえるようになることは間違いないでしょう。

料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)

料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)