2012-01-01から1年間の記事一覧

『落語の国の精神分析』(藤山直樹著、みすず書房)を読む。 「落語」と「精神分析」? 「能」と「精神分析」や「禅」と「精神分析」といういかにもな組み合わせの書名はあったけれど、こんな異色な組み合わせの書名は初めてだ。でも幼い頃から落語に親しん…

『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』(D.アリエリー著、早川書房)を読む。 人はどのような状況にあるときに嘘をついたりずるをしたりするのか? 従来の経済学が教えるように便益と損失をすばやく計算して利益があればずるをするのだろうか? このシンプルな…

『不平等について』(ブランコ・ミラノヴィッチ著、みすず書房)を読む。 世界の経済的不平等や貧困について、現在だけでなく過去まで遡って考察してみようという本。「なぜなら、富と権力における差を見せつけることは、あらゆる人間社会に付きものだからだ…

『社会脳の発達』(千住淳著、東京大学出版会)を読む。 ヒトの社会行動の脳神経学的基盤(いわゆる「社会脳」)を研究する著者によるヒトの心の発達について解説した本。ヒトの脳機能の発達について、モジュール説、熟達化説、相互作用説があることを冒頭で…

『考える足』(向井雅明著、岩波書店)を読む。 大脳生理学や画像診断学、分子生物学などの進展によって急速な進歩のみられる脳科学の隆盛で人間の思考や感情を唯物的に解釈する動きがひろがる中、論理的還元的思考とは異なる”主体”的思考というものがあると…

『系統樹曼荼羅』(三中信宏著、NTT出版)を読む。 起源へと遡行すること、対象を分類することは人間の根源的な営みなのだということを豊富な図像とともに教えてくれる学際的な一冊。三章から構成され、第穵部生物樹、第II部家系樹、第III部万物樹という三幅…

『哲学の起源』(柄谷行人著、岩波書店)を読む。 前著『世界史の構造』は未読なのだが、本書はそこで論じきれなかった古代ギリシャ哲学についての論考をまとめたもので、いわば前著の補遺にあたるとのこと。著者のいう交換様式Dは、交換様式B(略取と再分配…

『ひとの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー著、インターシフト)を読む。 ヒトの持つ色覚は何のために進化したのか。なぜ私たちの目は横向きではなく前方についているのか。私たちは未来を見ることができるゆえに錯視を起こすということ。そしてなぜ…

『自滅する選択』(池田新介著、東洋経済新報社)を読む。 行動経済学の知見にもとづいて、ダイエットやダイエットの失敗、借金の返済が滞ることなどのメカニズムを双曲割引という選択バイアスから説明する本。現在と将来という異なる時点での選択については…

『天才を考察する』(D.シェンク著、早川書房)を読む。 並外れた天賦の才能というものは遺伝子で決まっているのか。遺伝か環境かという古くて新しい論争について環境の重要性を説く本。とはいっても遺伝子の発現(G)において環境要因(E)が影響する(G+E)…

『最悪のシナリオ』(キャス・サンスティーン著、みすず書房)を読む。 テロや地球温暖化による気候変動などのリスクをどう評価し、どのような対策をとっておくべきなのかについて、まず人が示す反応について理解し、次に低確率の災害リスクを伴う状況につい…

『人間 この信じやすきもの』(T.ギロビッチ著、新曜社)を読む。 教育程度が高い人でも誤った信念を抱いてしまうことがあるのは何故なのかを認知心理学的に考察した本。第一部の「誤信の認知的要因」では私たちの思考の”癖”が誤信を招きやすい性質をもった…

『ホテル・アイリス』(小川洋子著、幻冬舎文庫)を読む。 城壁のある海岸近くにあるホテル・アイリスを母と営んでいる私が、娼婦と衝突したロシア語翻訳家の男性と知り合い背徳的な逢瀬を重ねる物語。一連の著者の作品の中では異端的な作品になると思う。そ…

『身体の時間』(野間俊一著、筑摩選書)を読む。 「今」を生きるということを論理的や物理的にではなく、「身体」が今を生きているという観点から考察していく本。著者は精神科医という立場からこの「今を生きる」ということをPTSDや解離性同一性障害という…

『数学で生命の謎を解く』(イアン・スチュアート著、ソフトバンククリエイティブ)を読む。 生物学の歴史で起こった五つの革命(顕微鏡の発明、生物の体系的分類、進化論、遺伝子の発見、DNA構造の発見)に次いで起こっている第六の革命、すなわち数学による…

『ラカンの殺人現場案内』(ヘンリー・ボンド著、大田出版)を読む。 殺人現場写真という通常は目にすることがない写真をラカン理論を応用して読み解いてみようという本。対象となるのは1955年から1970年の間に英国で起きた殺人事件の資料なので、科学捜査が…

『人はお金だけでは動かない』(N.ヘーリング、O.シュトルベック著、NTT出版)を読む。 表題からすると、人は経済学での前提となっているホモ・エコノミクスではないことを示す行動経済学をとりあつかった本のように思えるが、本書はそれだけではない。経済…

『群れはなぜ同じ方向をめざすのか』(レン・フィッシャー著、白揚社)を読む。 自然界の中には単純な規則によって目を瞠るような美しいパターンが生成すること(自己組織化)があるが、私たちの社会にも個人間の比較的単純な規則から動的な秩序が生まれ、う…

『群れはなぜ同じ方向をめざすのか』(レン・フィッシャー著、白揚社)を読む。 自然界の中には単純な規則によって目を瞠るような美しいパターンが生成すること(自己組織化)があるが、私たちの社会にも個人間の比較的単純な規則から動的な秩序が生まれ、う…

『ミーナの行進』(小川洋子著、中公文庫)を読む。 父親が病死したため母方の叔母の家に預けられることになった主人公がそこで出会ったミーナと過ごした一年間の物語。主人公が中学1年の1972年から73年という時代設定でちょうどミュンヘンオリンピックが開…

『寡黙な死骸 みだらな弔い』(小川洋子 中公文庫)を読む。 さまざまなかたちの死をテーマにした連作短編集。各短篇は独立した物語でありながら他の短篇とところどころで関連性をもっており、誰かの死はどこかで自分とつながっているという思いを抱かせる。…

『世界を救う処方箋』(ジェフリー・サックス著、早川書房)を読む。 世界の貧困問題の第一人者が祖国アメリカが抱える問題を指摘し、その処方箋を提示する本。冒頭に「アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある」と指摘し美徳の衰退を問題視している。…

『世にも奇妙な人体実験の歴史』(トレヴァー・ノートン著、文藝春秋)を読む。 猛毒をもつ河豚を最初に食した人間が誰かは誰も知らないが、誰しもその勇気に感心する。河豚を食する知識は今受け継がれて私たちは恩恵を受けているのだが、それと同じというよ…

『寅さんとイエス』(米田彰男著、筑摩書房)を読む。 映画『男はつらいよ』の主人公寅さんとイエス・キリストという一見無関係にみえる両者の共通性を考察しながら、功利性とは離れた無用性の知恵を語るユニークな本。聖書は子どものころから折に触れて読ん…

『数学でわかるオリンピック100の謎』(ジョン・D・バロウ著、青土社)を読む。 今日NHKスペシャルミラクルボディー 第1回「ウサイン・ボルト 人類最速の秘密」が放映されていたが、本書の最初の話題が、「ウサイン・ボルトはどうすればこれ以上速く走ら…

『トクヴィルの憂鬱』(?山裕二著、白水社)を読む。 フランス革命後のロマン主義時代を生き抜いたアレクシ・ド・トクヴィルの自己の理想と現実の隔たりからくる憂鬱がどのようなものであったのかを政治・文化情勢の変遷とともにみごとに描き出している。旧…

『小川洋子の偏愛短篇箱』(小川洋子編著、河出文庫)を読む。 作家の小川洋子さんによる短篇アンソロジーで、2009年同社より発刊された単行本を文庫化したもの。不気味な味の短篇から細かい人間模様を描写した名品までさまざまな短篇が「箱」に収められてい…

『マイクロワールド』(マイクル・クライトン著、早川書房)を読む。 早逝が惜しまれた作家の遺稿をノンフィクション作家リチャード・プレストンが完成させたSF作品を堪能した。かつて『ジュラシック・パーク』では、巨大な恐竜に恐怖した読者は、今回自然界…

『貧乏人の経済学』(A.V.バナジー&E.デュフロ著、みすず書房)を読む。 貧困層はなぜ貧困から抜け出せないのか、援助は有効なのかむしろ自立を阻害するので有害なのか、経済的援助を行う場合に常に問題となる議論を、大所高所の概念論ではなく自らが集めた…

『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子著、文春文庫)を読む。 生まれつき上唇と下唇がくっついているという奇形を持って生まれた無口な少年がふとしたことからマスターとよばれる男からチェスの手ほどきを受け、やがてリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになる…