『ひとの目、驚異の進化』(マーク・チャンギジー著、インターシフト)を読む。
ヒトの持つ色覚は何のために進化したのか。なぜ私たちの目は横向きではなく前方についているのか。私たちは未来を見ることができるゆえに錯視を起こすということ。そしてなぜ文字をすらすらと読めるようになるのか。これらの疑問に対して、進化の視点から理論神経生物学者である著者がスリリングに謎解きをしていく本。私たちの祖先が森で果物を見つけるために色覚が進化した、立体視ができるために目は前方についているという一見説得力のある通説に対して、著者は色覚が相手の肌の色を敏感に読み取り、ひいては感情を読み取るために進化したのだということを説く。ここでは錐体細胞の光の波長に対する感度と皮膚のスペクトルとの分布との一致を示し、さらに肌のスペクトルが皮下を流れる血液の量と酸素飽和度によってどう変化するかをあわせて示し見事な推論を披露している。前方に向いた目の配置については、茂みの中から景色をみる場合に有利であることを説き、さまざまな動物の大きさと葉に対する嗜好性を示しながら、ここでも見事な推論を行っている。さまざまな錯視を紹介する章では、本来私たちは環境の中で運動しながら情報処理を効率よくするために進化してきたのだということがわかり、錯視はけっして目の欠陥ではないと納得する。「見る」ということは真実を知ることの代名詞のように語られるが、私たちの見る真実というのは長い進化の産物でもあるのだということ知ることで、より深い真実へと進んでいけるようだ。
関連する本;『眼の誕生』(草思社)、『見る』(早川書房

ひとの目、驚異の進化: 4つの凄い視覚能力があるわけ

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