反知性主義』(森本あんり著、新潮選書)を読む。
アメリカの反知性主義』(リチャード・ホッフスタッター著、みすず書房)が名著であることは夙に知っていましたが、手つかずのままでいたところ、この本を書店でみて読んでみました。本書の冒頭にもあるように「反知性主義」というのは「単なる知性への反対というだけでなく、もう少し積極的な意味が」含まれており、「知性そのものでなくそれに付随する「何か」への反対で、社会の不健全さよりもむしろ健全さを示す指標で」あったことを著者はまず述べています。具体的には、植民地時代のアメリカにあったピューリタニズムの極端な知性主義に対する反動として信仰復興運動が起こり、それに付随して反知性主義が生まれたということです。ヨーロッパという旧い閉塞した世界から脱して作られた国であるアメリカでは、聖書で説かれる神的で原初的な知へと帰ることが強調されるとともに、そこへのアクセスはいわゆる知性的な一部の人々だけではなく誰にも平等に開かれているはずだという、知性より霊性の優位が強調されます。アメリカでの政教分離政策というものが、宗教の排除ではなく、各人が自由に自分の信仰する宗教を奉じることができるようにすることを目指しており、その推進者として自由と権利侵害に対して強く反対する合理主義者がおり、他方には主流派教会から迫害を受けていた福音主義的な少数派がおり、その両者が結びついたという歴史を読むと、アメリカという国の考え方をずいぶん理解しやすくなります。後半では、反知性主義とその大衆化の歴史が語られ、これが一つのビジネスモデルとして確立していく過程もアメリカという国を理解する上で大変参考になります。「世俗的に成功しているのは神から祝福されている証拠なのだ」というなんともおめでたい信仰がアメリカをの強さの一つなのでしょう。貧富の差が拡大し、人々が平等に疑問を持ち始めた現代アメリカでこの先反知性主義がどのような道をたどるのか興味深いところです。
アメリカという国を知る上でとてもいい本だと感じました。

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)