『自滅する選択』(池田新介著、東洋経済新報社)を読む。
行動経済学の知見にもとづいて、ダイエットやダイエットの失敗、借金の返済が滞ることなどのメカニズムを双曲割引という選択バイアスから説明する本。現在と将来という異なる時点での選択については、私たちは現在指向となり将来の効用が一定の率割り引かれる(時間割引)という特性があり、両者の間で葛藤が起きる。賢明な人は自分の弱さを知っているが、単純な人は目先の誘惑にとらわれ、ついつい自滅的な選択をしてしまう。この時間割引は指数割引ではなく双曲割引のほうがより現実に近い。また将来の損失に対する時間割引率は将来の利益に対する場合よりも低くなるという符号効果がある。こうしたことは類書にもすでに書かれているが、本書では賢明な人は単純な人より自滅する選択はしないけれども、必要以上に過度に禁欲な選択をしてしまい、効用が減じることもある点を説明しているところが面白い。私たちは完全に賢明でも単純でもなく部分的に賢明なのだ。こうした人間の本性をわきまえた上で、賢明な選択をするように仕向けるために個人レベルではコミットメント技法を利用すること、社会的にはリバタリアンパターナリズムという方法があることが紹介されている。
実証的な研究が進行中のトピックスをわかりやすく解説した良書であると思う。2012年度第55回日経・経済図書文化賞受賞
関連図書:『誘惑される意志』(NTT出版)『行動健康経済学』(日本評論社)『ヤル気の科学』(文藝春秋

『ヤル気の科学』(イアン・エアーズ著、文藝春秋)を読む。
『自滅する選択』で解説されていた人間の双曲的な時間割引率による選択の誤りの罠からいかにのがれるか。その対策として自分を敢えて拘束し選択肢を狭めるコミットメントの手法を解説する本。第2章ではインセンティブとコミットメントの違いについて解説し、前者は選択肢に「値付け」してある選択肢に誘導するものだが、値付けすることで逆に違反が常態化するリスクがあることを指摘する。コミットメントは拒否できないような提案を敢えて行う。第3章ではコミットメントの手加減具合について延べ、厳しすぎる鞭は効果が長続きせず反動が起こるという。ダイエットのときには要注意だ。また同じ条件でも鞭に見えるようにするのかそうでないのかフレーミングも重要であることを示している。また第4章ではコミットメントにおいては掛け金の大きさだけではなく、誰に対してコミットメントを行うかという社会的文脈が重要であることが強調されており、誰が成功を判定するか、失敗を誰に知らせるか、他人も成功しているのかといったことが成功率に関わる。第5章ではコミットメントの失敗について述べ、適切な目標設定と継続的なフィードバックが重要であり、計画が進捗しているという思い込ませることやときには柔軟な対応も匙加減で加えることがコツであるとする。このあたりは個人個人によってかなりことなるところだろうし、難しいところだ。後半では著者が実際にコミットメントによる実行を手助けするために設立したstickKというビジネスを紹介している。こういうところはさすがにアメリカ的だと思う。