『天才を考察する』(D.シェンク著、早川書房)を読む。
並外れた天賦の才能というものは遺伝子で決まっているのか。遺伝か環境かという古くて新しい論争について環境の重要性を説く本。とはいっても遺伝子の発現(G)において環境要因(E)が影響する(G+E)といった形ではなく、環境が遺伝子の発現に影響を与えるという相互作用(G×E)が重要なのだと説く。こうした視点からすると知能というのは静的なものではく、一つの動的プロセスである。したがって一卵性双生児だって環境が異なれば似ていないところが多々でてくるし、同じ才能にも早咲きもあれば遅咲きもある。こういうと少しほっとするかもしれないが、実は才能をほんとうに開花させるためには並大抵でない環境の下で訓練しなければいけないこともまた真実なのである。そう中途半端に才能がないといってあきらめるのはたんなるいいわけにすぎないということにもなる。基礎的な話でいえばエピジェネティクスが問題なのだということになるが、このあたりはまだ不明なことも多く知能といった複雑な事象がどれほどエピジェネティックに形成されるのかはさらにわかっていないといった方がいいだろう。
400頁余りの本であるが、本文はその半分で残りは註となっており、遺伝学についての難しい話はほとんどないので、通読はすぐできる。
関連する本:『心は遺伝子の論理で決まるのか』(みすず書房)、『遺伝マインド』(有斐閣)、『頭のでき』(ダイヤモンド社

天才を考察する―「生まれか育ちか」論の嘘と本当

天才を考察する―「生まれか育ちか」論の嘘と本当