『不平等について』(ブランコ・ミラノヴィッチ著、みすず書房)を読む。
世界の経済的不平等や貧困について、現在だけでなく過去まで遡って考察してみようという本。「なぜなら、富と権力における差を見せつけることは、あらゆる人間社会に付きものだからだ。不平等とは、その定義上、社会的なものである」ということで、古代ローマ帝国の皇帝と現代の大富豪を比較する。本書は現実の話にとどまらず、『アンナ・カレーニナ』や『高慢と偏見』に登場する人物の資産を評価して現在の貧富の差と比較するような話もあり興味深く読ませる工夫がなされている。最初に一国家内での不平等を検討した次には国家間での貧富の差を考察する。ここで著者は、国家間の所得の相違をみるにあたって不平等の算出方法に各国を同等に扱う方法と人口に比例して各国にウェイトを与える方法の二つがあり、かつてはどちらでも大差はなかったが、最近ではどちらの方法で行うかによって差が生じうることに注意を喚起する。グローバリゼーションによって期待された各国間の貧富の差の縮小が見られず、富は豊かな国から豊かな国へと流れただけだったことを示し、経済理論が見直されつつあることを読者に伝えている。最後に一国内の国民間の不平等と国家間の不平等を組み合わせることで、世界中の市民の間のグローバルな不平等を推定することができるかという問題にとりくむが、これには必要なデータが欠けているところが多く難題であることを告白する。各国間で比較可能となったのは1980年代以降のことになってからということで、かなり仮説的なところもあるということを断り、グローバルな不平等を拡大する主な力は、1人当たりのGDPの国家間格差にあると述べている。ロールズは国家間の不平等については軽視していることを批判し、最後に著者は、アダム・スミスの言葉を引用する。「国家を最も高い富裕度に至らしめるためには・・・平和、簡潔な税制、寛容な司法制度・・・以外はほとんど必要ない」と。そして「今日、世界各国を分類する試みを困難にしている主な原因は、アジアの多様性にある」とし、「21世紀の重要課題は、次のように要約できるだろう - いかにしてアフリカを上昇させるか、いかにして中国を平和的に取り込むか、いかにしてラテンアメリカをその妄想から乳離れさせて現実世界に取り込むか。しかもこれらの課題すべてを平和裏に、イデオロギーの聖戦を避けて実行しなければならいのだ」と結んでいる。深刻で重要な問題を面白く読ませる好著。

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話