『社会脳の発達』(千住淳著、東京大学出版会)を読む。
ヒトの社会行動の脳神経学的基盤(いわゆる「社会脳」)を研究する著者によるヒトの心の発達について解説した本。ヒトの脳機能の発達について、モジュール説、熟達化説、相互作用説があることを冒頭で紹介し、本書では相互作用説の立場をとるとし、ダンバーの「社会脳仮説」の解説からその概念をみていく。続く第II部では生後数年の赤ちゃんがどのように「心の理論」を発達させるのかを実験手法とともに紹介する。誤信念課題について視線の解析実験からは生後15ヶ月の赤ちゃんでも誤信念を理解することを示されるが、この実験手法の組み立て方とそれに対する反論、さらにそれに対する反証実験を紹介するところは面白い。続いて社会脳の発達における視線とアイコンタクトの重要性が説かれ、第III部では自閉症患者におけるその異常を考察していく。自閉症児では、視線の方向と他者の表情などの他の社会的手がかり(怒っているのか、怖がっているのか)を組み合わせて処理する傾向が弱いのだという。アイコンタクトを通常の発達を示すヒトはいとも自然にこなすだけに、自閉症者の異常の解釈においては実証的研究が必要だと説く著者の真摯な姿勢が印象的だ。脳の発達という面白さはもとより、素朴心理学的解釈でともすれば誤解されやすい自閉症児について地道だが実証的な研究を重ねて体系化していく努力の大切さを教えられる点でとても有益な本だと感じた。
関連する本:『ソーシャル・ブレインズ -自己と他者を認知する脳』(東京大学出版会

社会脳の発達

社会脳の発達