『人間 この信じやすきもの』(T.ギロビッチ著、新曜社)を読む。
教育程度が高い人でも誤った信念を抱いてしまうことがあるのは何故なのかを認知心理学的に考察した本。第一部の「誤信の認知的要因」では私たちの思考の”癖”が誤信を招きやすい性質をもったものであることを説明しており、ここが最も読み応えがあり役にたった。私たちはある秩序やパターンをどうしても読み込んでしまう癖があり、それゆえランダムな事象というものをとらえることが苦手なこと、それもあって後付けで理由をつけることには天性の能力をもっていることが説明される。それゆえ曖昧なデータを先入観や期待によって歪んで眺めてしまうのである。私たちは自分の期待にそわない情報に出会ったとき単純に無視するのではなく、より厳しく吟味したり期待に沿うように巧みに枉げてしまったりするという指摘は正鵠を得ている。また事象には勝ち負けのように二面性がありどちらが起こっても記憶に残りやすい事象と、生起したことだけが事実として残る一面性の事象があり、後者では特に自分にとって都合のよい事象のみが記憶に残るという指摘も鋭い。ある信念の検証において援用する情報は、常にコントロールとなる情報との厳格な対比で検討することの重要性を教えられる。一般にこれは自然科学で仮説の検証を行う際には実践されていることなのであるが、日常生活ではついつい期待や欲望、先入観などで目が曇らされ、検証が疎かになるのだろう。著者はある情報がどういう経路で獲得されたかも重要であり、自分の信念を他者に確認する際に陥りやすい落とし穴についても考察しており、IT時代には心得ておくべき重要な指摘が書かれている。後半は超能力や代替療法の誤りについて前半で述べた論点を援用しながら説明している。
初版は1993年であるが、現在まで19刷を重ねていることからも非常に有用な本であることがわかる。
関連する本:『疑似科学と科学の哲学』(名古屋大学出版会)『疑似科学入門』(岩波新書)『代替医療のトリック』(新潮社)『超常現象の科学』(文藝春秋)『思い込みの心理学』(ナカニシヤ出版)

人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)

人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)