2012-01-01から1年間の記事一覧

『完本 酔郷譚』(倉橋由美子著、河出文庫)を読む。 7年前の6月に亡くなった作家の『よもつひらさか往還』(2002年)と『酔郷譚』(2008年)を併せて文庫化した本。主人公の慧君は祖父が元首相の入江晃で、その祖父が「前世紀の、多分まだ昭和だた頃に始め…

『遺伝子と性行動』(山元大輔著、裳華房)を読む。 脳神経系の構造と機能の基本デザインは遺伝子で規定されており、行動を引き起こすものが神経系であるのなら、生物の行動の基本パターンは遺伝子によって規定されているはずだ。本書はショウジョウバエにお…

『謎の物語』(紀田順一郎編、ちくま文庫)を読む。 短篇小説の醍醐味は結末の意外性や斬新さに依るところが大なのだが、最後が読者の想像に任されたり、謎が解かれず終いだったりするいわゆる「謎物語(リドル・ストーリー)を集めた一冊。この形式はこの本…

『それをお金で買いますか』(マイケル・サンデル著、早川書房)を読む。 ハーバード白熱教室で有名になったサンデル教授による市場主義の問題を論じた本。まず序章に出てくる実例を読んで日本人の私は驚く。以下はお金で買えるのだ:刑務所の独房の格上げ、…

『神道とは何か』(伊藤聡著、中公新書)を読む。 古代から近世までの神道の歴史を仏教との相互作用の中でどのように展開したかを概説した本。古代における神仏習合のいきさつから始まって、中世における神道と仏教との関係すなわち神仏習合のことを説明して…

『音楽嗜好症』(オリヴァー・サックス著、早川書房)を読む。 『妻と帽子をまちがえた男』など数々の著書で知られる著者が、人間と音楽の関係を神経内科学的立場から描いた本。コンピューターは人間の脳に喩えられることがあるけれど、一部が故障したときに…

『老化の進化論』(マイケル・R・ローズ著、みすず書房)を読む。 ショウジョウバエの選択育種により通常の寿命以上に(約10%)長生きさせる個体(メトセラバエ)を選択することに成功した進化生物学者による研究の軌跡を記した本。著者は進化のしくみを利…

『ソウルダスト』(ニコラス・ハンフリー著、紀伊國屋書店)を読む。 『赤を見る』の著者である進化心理学者である著者が意識にはどういう意味があるのかについて考察した本。題名の「ソウルダスト」とは、意識をもつ私たちが外界のさまざまな対象に投影する…

『知識と経験の革命』(ピーター・ディア著、みすず書房)を読む。 17世紀に起きた科学革命はどのようなものであったかを16世紀の科学と対比させながら解説する本。巻末の解説によれば、本書は、アメリカ科学史学会が英語で出版された一般読者向けの科学史を…

『意識は傍観者である』(デイヴィッド・イーグルマン著、早川書房)を読む。 神経科学を専門にする著者は、本書で脳という精巧な器官は、意識下で多くの仕事を並列で処理していること、それはつまり自分だと意識している「自分」とは、すべてを知っているオ…

『居心地の悪い部屋』(岸本佐知子編訳、角川書店)を読む。 巻末に訳者が書いているように、「うっすら不安な気持ちになる小説」を集めた短編集。「どこかに行こうとして電車に乗るのだけれど、乗りまちがえて全然ちがう場所に着いてしまう」ような感覚を、…

『日本語雑記帳』(田中彰夫著、岩波新書)を読む。 メディアの言葉や外来語、方言、漢字などにまつわる豊富な話題を集めたエッセイで、随所に楽しい話題がちりばめられている。例えば方言については、東日本と西日本の方言の違いはよく取り上げられる話題だ…

『フラクタルの物理(I)基礎編』(松下貢著 裳華房)を読む。 『枝分かれ 自然が創り出す美しいパターン』(早川書房)を読んだとき、フラクタルに関することをもう少し詳しく知りたかったときに、出会った本。著者が大学学部や大学院で講義する際のノート…

『効率と公平を問う』(小塩隆士著、日本評論社)を読む。 とかく効率性ばかりを論っているように思われる経済学のもう一つの重要な柱である公平性とは何か、そして今の日本ではどのようなところに不平等があり、それをどう是正していくべきかを論じた本。経…

『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著、東京創元社)を読む。 前に読んだ『犯罪』の奇妙な読後感が忘れられず、読んでみた。刑事弁護士である著者の筆致は相変わらず淡々と罪に落ちた人とその状況を語る。法が人を裁くことで事件は一応の決着が…

『孤独の科学』(J.T.カシオポ&W.パトリック著、河出書房新社)を読む。 孤独とはもちろん、単に独りでいることではなく、自分が一人きりだと感じていることだが、このつらさは身体的な痛みを感じる情動反応と同じ脳の部位が感じているという。著者は、孤独…

『枝分かれ』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。 「自然が創り出す美しいパターン」シリーズの最終巻。ここはエピローグから著者の言葉をまず引用する。 一握りのなんでもないプロセスをエレガントにかう微妙に変化させたり組み合わせたり修正した…

『しあわせ仮説』(ジョナサン・ハイト著、新曜社)を読む。 「しあわせ」とは何かについて社会心理学者の著者がポジティブ心理学の立場から考察した本。ポジティブ心理学というのは、人間の長所に重点をおいた心理学で個人の病理より長所をのばす方法論に関…

『隠れた脳』(S.ヴェダンタム著、インターシフト)を読む。 私たちの脳には、物事をヒューリスティックに処理する脳と理性的に処理する脳があり、前者によってうまく行く場合もあるもののときにはとても不合理なことが起きる場合があることをさまざまな例を…

『喜びはどれほど深い?』(ポール・ブルーム著、インターシフト)を読む。 飢えを満たす、セックスをするといった動物と共通した快楽から芸術鑑賞や宗教、マゾヒズムなど人間ならではの快楽に至るまで様々な快楽を人間は貪るが、その喜びはどこからくるのか…

『恋するオスが進化する』(宮竹貴久著、メディアファクトリー新書)を読む。 生物の生殖と進化について昆虫を主題にして解説した本。著者は沖縄でウリミバエの駆除に10年間携わっていた研究者で、ところどころに研究生活の悲喜こもごもが語られているのが微…

『偶然の科学』(ダンカン・ワッツ著、早川書房)を読む。 あるファッションが爆発的に流行したり、ある本が突然ベストセラーになったりする現象を私たちが説明しようとするとき、そのスタイルや本の中に他とは違う理由を探しだす。その「常識」による説明の…

『ラピスラズリ』(山尾悠子著、ちくま文庫)を読む。 画廊で目にした三枚組の銅版画から物語は始まる。一枚目は、晩秋の木立で荷車に積み上げられた十数人の男女の死体を落ち葉の吹きだまりに投げ捨てる版画。二枚目は真冬の寝室の様子を描いた版画。三枚目…

『快感回路』(D.J.リンデン著、河出書房新社)を読む。 一般に報酬系と呼ばれる脳内システムについて、最新の知見を紹介しながら解説してくれる本。冒頭でこの回路の基本的解剖が解説される。腹側被蓋野(VTA)ニューロンが側坐核をはじめ、扁桃体、前帯状皮…

『障害者の経済学』(中島隆信著、東洋経済新報社)を読む。 2006年に出版された同名の本の増補改訂版で、経済学の視点からみて障害者支援の制度設計はどうあるべきかを論じた本。著者は障害者問題が日本では一般の議論にのぼることが少なく、経済学者も避け…

『移行化石の発見』(B.スウィーテク著、文藝春秋)を読む。 ダーウィンが唱えた進化論を実証するために、生物種と生物種の間を埋める移行化石(ミッシングリンク)は何を語るのか。それは下等な生物から高等な生物へとつながる一本の連鎖の一つを埋めるもの…

『大気を変える錬金術』(T.ヘイガー著、みすず書房)を読む。 「水と空気と石炭からパンを作る方法」といわれたアンモニア合成法(ハーバー・ボッシュ法)を開発した二人の化学者フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュの人生を描きながら、当時の社会情勢が…

『スパイス、爆薬、医薬品』(P.ルクーター/J.バーレサン、中央公論新社)を読む。 人類の歴史に関わった様々な化学物質のエピソードをブリティッシュコロンビア州キャビラノ大学化学科教授が解説してくれる本。その中には塩化ナトリウムから香辛料に含まれ…

『師弟のまじわり』(ジョージ・スタイナー著、岩波書店)を読む。 人類の歴史で人は自分の知識や技術を人に伝授してきた。教え、教わるというは生きていく(生き残る)上で必須であるし、これからも何らかのかたちで続いていく営みだろう。そうした師弟の関…

『オリクスとクレイク』(マーガレット・アトウッド著、早川書房)を読む。 『侍女の物語』、『昏き目の暗殺者』の著者によるディストピア小説。物語は人類が生み出したJUVEウイルスにより人間がことごとく死亡した世界に残されたスノーマンことジミーによっ…