『遺伝子と性行動』(山元大輔著、裳華房)を読む。
脳神経系の構造と機能の基本デザインは遺伝子で規定されており、行動を引き起こすものが神経系であるのなら、生物の行動の基本パターンは遺伝子によって規定されているはずだ。本書はショウジョウバエにおける性行動の遺伝学的基盤を探究の展開を著者自身の研究歴とともに解説していく本である。雄と雌の性行動の違いは神経系のどのような差によるのか、そしてその差を生み出している遺伝子は何なのか、この未解決の問題にさまざまな研究者がどう格闘してきたのかが臨場感溢れる筆致で描かれており、通常の概説書を読むよりずっとわくわくとさせられる。その研究に用いられる様々な実験方法の工夫に感心させられることしきりであった。特に4章と5章の、著者自身がクローニングしたfruitless遺伝子の発見と展開は読み応えがある。それにしてもあの小さなショウジョウバエの性行動を地道に観察したり、ハワイの固有種100種以上を収集するその執念には頭が下がる。5章末のネイチャーの表紙の写真掲載の裏話には微苦笑した。
脊椎動物の脳にも性差はあるから、将来その遺伝的基盤があきらかになるかもしれない。そうした知見が積み重ねられることで、進化の産物である性差を互いに認めるところから建設的な社会生活の議論ができるのが望ましいと感じた。

遺伝子と性行動―性差の生物学

遺伝子と性行動―性差の生物学