『恋するオスが進化する』(宮竹貴久著、メディアファクトリー新書)を読む。
生物の生殖と進化について昆虫を主題にして解説した本。著者は沖縄でウリミバエの駆除に10年間携わっていた研究者で、ところどころに研究生活の悲喜こもごもが語られているのが微笑ましい。冒頭で「愛」というものが生物界では「戦い」であると告げ、ヨツモンマメゾウムシの棘をもったペニスによるセックスの生態を語る。第1章では雌雄の別が生じた進化的理由を説明し、第2章では性選択(異性間選択と同性内選択)についてガガンボモドキやツカツクリなどの生物を例にあげながら解説する。同性内選択は続く第3章でさらに詳しく解説される。闘争で不利なオスがあの手この手で正面衝突を避けつつ子孫を残す健気な工夫(「ナンパの場所・時間をずらす」、「隙を狙う」、「たくさん射精する」)には驚くやら苦笑するやら・・・。第4章では、複数のオスとセックスするメスの体内で起こる精子競争が解説される。メスの生殖管内で他のオスの精子と出会うと、自分の精子同士は協力するというのは驚きだ。いったいどんなメカニズムがあるのだろう。これを研究するのに個体ごとに精子を蛍光染色して識別する方法があるのだ。色とりどりの蛍光を放ちながら卵子を目指して泳ぐイメージにしばし浸ってしまった。第5章での衝撃の事実は、キイロショウジョウバエの精液中にメスの寿命を短くする物質があるということ。チャップマン博士が行った84世代交配を続けた後の交尾実験の結果が示される。ここまでくると相思相愛で子孫を育むという甘いイメージは跡形もなく消え去ってしまう。また雌雄の乱婚傾向による性的対立が種分化を促すというのもうなづける。第6章ではほとんどの種でメスは「浮気」をすることが語られる。そしてそれを防ぐオスの方法がいろいろあることが書かれている。」第7章は性転換の話。ここで出てくるオスを減らすボルバキアという細菌の話も衝撃的だ。
限られた紙面ながら話題満載で楽しく読める。交尾のことを「セックス」、交尾器を「ペニス」と書かれてあるのが、やや鼻につくのだが、最後に一般向けということでこうした用語を使ったという断りが入れてあったのがよかった。
こうした生物の性に関する本は、人目をひくためか書名や装幀が奇抜なことが多いのだが、出版社はあまり奇をてらわない方がいいと思う。

恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書)

恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書)