『障害者の経済学』(中島隆信著、東洋経済新報社)を読む。
2006年に出版された同名の本の増補改訂版で、経済学の視点からみて障害者支援の制度設計はどうあるべきかを論じた本。著者は障害者問題が日本では一般の議論にのぼることが少なく、経済学者も避けてきたと指摘し、その原因の一つに障害者問題がどうしても善悪の立場から論じられてしまうことにあるという。これに対して経済学は中立性があり、特定のだれかの利益に与しせず社会の費用負担を最も効率的に論じられるとする。著者は「障害者」という前提にとらわれて最初に「転ばぬ先の杖」的発想からシステムをつくると、かえって潜在的な可能性の芽をつんでしまう欠点があると主張し、福祉政策が脱施設化と地域移行という方向に向かった現在では有効ではないとする。その上で障害者の特性を活かした就労支援をすることが重要だと説く。その際に経済学でいう比較優位の原則に基づいて実際の活用例も引きながら障害者の就労について提言をしている点は新鮮だった。そしてこの点は障害者という特別な場合に限った問題ではなく、広く社会一般の就労について考える際にも重要だということに気づかされる。ややもするとハンディキャップを負った人たちに同情的になり論点がぼやけがちになる問題を非常に明解に論じており、楽しめた。声高に弱者保護を教条的に主張することしかしない人たちにも読んでほしいものだ。

障害者の経済学

障害者の経済学