『師弟のまじわり』(ジョージ・スタイナー著、岩波書店)を読む。
人類の歴史で人は自分の知識や技術を人に伝授してきた。教え、教わるというは生きていく(生き残る)上で必須であるし、これからも何らかのかたちで続いていく営みだろう。そうした師弟の関係を博覧強記の著者がさまざまな角度から描く。本書では人文分野での話題が中心になるが、自然科学分野での師弟関係をはじめ音楽などの芸術、スポーツなどについても触れられている。「師弟」という関係がただ知識の伝授に終わるものではなく、そこには尊敬と寵愛というほほえましき関係だけでなく師による弟子の破壊、師に対する弟子の裏切りがみられる。自然科学より人文分野のほうが取り扱い主題の性質もあり師弟間にエロス的衝動、誘惑と裏切りがおきやすいという著者の比較考察も面白いが、それだけ教育というものは人格形成に深く影響を及ぼすということだ。昨今の師弟間でのセクハラ問題のような浅薄な病理とは距離をおいた考察からは、著者の深い洞察が感じられる。この点でアメリカ的精神にはアイロニーが欠けているとさらりと指摘している点など掘り下げると面白そうな点が随所にみられる。さいごに著者は、師弟関係が最近の電子メディアの発達により変化してきていること(師のもつカリスマ性や人格的魅力がものをいう局面が限定されつつあること)、女性の師が増えてきており従来の師弟関係のジェンダー関係も変わりつつあること、そして最も重要な変化として師に対する尊敬、敬愛が時代遅れになり不敬の時代となりつつあることを郷愁を漂わせながら指摘している。

師弟のまじわり

師弟のまじわり