『スパイス、爆薬、医薬品』(P.ルクーター/J.バーレサン、中央公論新社)を読む。
人類の歴史に関わった様々な化学物質のエピソードをブリティッシュコロンビア州キャビラノ大学化学科教授が解説してくれる本。その中には塩化ナトリウムから香辛料に含まれる天然の化合物もあれば、避妊薬や有機塩素化合物など人間が生み出した合成化合物まで数多くのものが登場する。香辛料や塩、麻薬、爆薬となるニトロ化合物などはまさに歴史を大きく動かした化合物と言えるだろう。考えてみるとこれらの物質を巡りどれほどの欲望と権力、暴力が渦巻いていることか。表舞台にたつこうした化学物質の話以外に、マゼランの大航海とアスコルビン酸、ナポレオン軍敗走と麦角アルカロイドスペースシャトル打ち上げ失敗とゴムなど隠れたところで歴史の運命を決めていた化合物の話など興味深い話が数多く語られる。類書と大きく違うのは、これらの化合物の化学構造式がきちんと書かれ、重要な官能基を説明しているところだろう。これらの化学構造式があることで一見無関係に見える化合物どうしにもきちんとした関連があることが理解できるし、解説がいちだんと切れのある仕上がりになっている。冒頭で著者は化学構造式を入れるかどうかで悩んだようだが、結果的に入れることで正解であったといえる。こんなに化学構造式が多い読み物は通常だったらその手の本を扱う出版社が引き受け化学分野の書棚に並べられたのだろうが、それを引き受けて歴史書のコーナーに並べた中央公論新社を評価したい。

スパイス、爆薬、医薬品 - 世界史を変えた17の化学物質

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