『オリクスとクレイク』(マーガレット・アトウッド著、早川書房)を読む。
侍女の物語』、『昏き目の暗殺者』の著者によるディストピア小説。物語は人類が生み出したJUVEウイルスにより人間がことごとく死亡した世界に残されたスノーマンことジミーによって語られる。友人のクレイクとポルノサイトをきっかけに遭遇した謎の女性オリスクとの思い出の描写が挿入されながら、物語は進む。移植医療用に創られた遺伝子組み換え生物ピグーンやプログラムされて生きる人工生物クレーカーなどが登場する。後者の描写は嫌悪感を催させる生態だ。ピグーンは、遺伝子組み換えブタから着想を得ていると思われるが、iPS技術が日進月歩で進んでいる現在からみるとすでに古いと感じられてしまう。
人間が自ら生み出した技術で自滅するという終末世界は、バベルの塔の物語の延長線上にあり、クレイカーたちがスノーマンに創造主の物語をせがむというところもキリスト教的世界観が反映している。そうした骨格が透けて見えてしまうので、破壊された世界を描きつつも完全には破壊されてはないのではと感じてしまう。そこが読んでいて少し不満を感じるところでもある。
本書は彼女の三部作の第一作ということだ。後続する小説ではどのような世界が描かれるのだろうか。

オリクスとクレイク

オリクスとクレイク