『日本語雑記帳』(田中彰夫著、岩波新書)を読む。
メディアの言葉や外来語、方言、漢字などにまつわる豊富な話題を集めたエッセイで、随所に楽しい話題がちりばめられている。例えば方言については、東日本と西日本の方言の違いはよく取り上げられる話題だが、東海道新幹線の車内アナウンスが東京から大阪に向かい車掌が替わるとアクセントや言葉遣いが変わってくることや、「している」というと進行形と完了形の二つの意味があるが、それを使い分ける便利な方言があること、山の手と下町の言葉づかいのことなどが取り上げられている。第VIII章の「ことばは時代とともに」は、さまざまな言葉の変遷が取り上げられていて、どれも興味深かった。丁寧な言い回しでつかわれる「です」は、幕末の江戸の町人が使い始めたもの(もとは卑しい芸人言葉だったという)なので、水戸黄門様が「助さん、格さん、もういいでしょう」などとはいわなかったこと、推量の「〜ましょう」という言葉はかつて天気予報で使われたが、「勧誘」の意味がもっぱら使われるようになり次第に使われなくなったこと、「とても」や「絶対」、「全然」のあとには否定で受けるのかどうか、皇室言葉の変遷などを興味深く読んだ。本書の登場人物というとおかしいが、漢語の読みの話題のところで、漢字を読めなかった麻生さんが政治家の使う方言の話題にも登場しており、日本語についての話題提供という点では貢献しているのだと妙に感心した次第。

日本語雑記帳 (岩波新書)

日本語雑記帳 (岩波新書)