『ミーナの行進』(小川洋子著、中公文庫)を読む。
父親が病死したため母方の叔母の家に預けられることになった主人公がそこで出会ったミーナと過ごした一年間の物語。主人公が中学1年の1972年から73年という時代設定でちょうどミュンヘンオリンピックが開催された時期にあたる。裕福な伯父が住む芦屋のお屋敷にはコビトカバのポチ子が飼ってあったり光線浴室という部屋があたり一風変わっている。ミーナは喘息があるためコビトカバに乗って通学する本好きの少女で、マッチ箱を収集している。小説の中で起きる出来事はどれも日常的なことではあるのだが、どれも美しく光っている。ちょうどミーナがマッチで灯す火のように。二人の少女の交流とそれをとりまく人々がまるで自分が体験したような思いとして読後に残るすばらしい物語だった。芦屋を舞台にしたこの女性二人の物語は、谷崎潤一郎賞にふさわしい。そして挿絵もこの物語にふさわしく美しい。

ミーナの行進 (中公文庫)

ミーナの行進 (中公文庫)