『群れはなぜ同じ方向をめざすのか』(レン・フィッシャー著、白揚社)を読む。
自然界の中には単純な規則によって目を瞠るような美しいパターンが生成すること(自己組織化)があるが、私たちの社会にも個人間の比較的単純な規則から動的な秩序が生まれ、うまく適応しながらそれが持続することがある。集団から生まれる創発的な群知能はどのようなもので、その根底にはどんな規則があるのか、そして予測困難な状況でどのようにすれば最善の決定ができるかを本書は解説する。群知能の例として渡り鳥やイナゴ、蜜蜂、蟻が取り上げられ、集団があたかも一つの意志をもって動いているようになるには「回避」、「整列」、「引き寄せ」の条件があればいいことが説明される。わずかな数の個体で先導される現象は、「単純に、知っている個体と知らない個体の間の情報格差に応じて生じ」、知らない個体が集団に留まりたいと望み、かつ相反する目的地をもっていないことで生み出せるそうだ。ここで集団を一定の精確さで導くのに必要な情報通の個体の比率は集団が大きくなるほど小さくなるというのは面白い。続いて集団での意思決定は意外とうまくいくという問題の種類(状況推定問題)があり、これがうまくいくときの条件を解説している。特に肝心なのはそれぞれが独立して自ら思考することというのは集団的愚考(集団思考)に陥らないためにも教訓とすべきことだ。本書では民主制の理論的欠陥とともに集団思考の例(NASAが招いた事故)が例示されている。最後にヒューリスティック思考の長所と短所を解説しながら日常生活で遭遇する複雑な状況の切り抜け方をアドバイスしている。巻末にその34のルールが示されているので、時間のない人はそれだけでも読んでみるのもいいかもしれない。
関連する本:『自然の造形と社会の秩序』(東海大学出版会)、『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』(インターシフト)、『意思決定理論入門』(NTT出版)、『複雑で単純な世界』(インターシフト)

群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

『動物に魂はあるのか』(金森修著、中公新書
動物に”魂”があるのか-この疑問について古代ギリシャから現代に至るまで西欧の知性はどう考えてきたのかを通覧する本。魂とは人間が示すような推論的理性や合目的行動を起こす意志の活動を意味しているといってよいのだろう。本書ではデカルト登場以前と以後で動物に対する態度に断層があることを示している(第二章)。こうした入門書ではあまりとりあげられることのない思想家が紹介されている(第三章)ことが本書の特徴だろう。動物に対して人間が抱く共感と動物と人間を区別する理性との折り合いをどうつけるかという思索が人間をどう位置づけるかによって歴史的に揺らぎつつ現代に至っていることが分かる。本書で残念なのは、進化論の出現がこの思考にどう影響したのかが割愛されていることだ。進化論的思考はデカルトの登場と同じかそれ以上の衝撃をもたらしたのであるが、そこが抜けて一気に現代にとんでいるところは残念だ。そのあたりは巻末の参考文献などで補填してほしかった。本書を動物と人間との関係を考える端緒として、類書を読み進めていくとよいだろう。
関連する本:『人間/動物の分割線』(現代思想 37-8, 2009)、『〈動物のいのち〉と哲学』(春秋社)、『動物からの倫理学入門』(名古屋大学出版会)