『貧乏人の経済学』(A.V.バナジー&E.デュフロ著、みすず書房)を読む。
貧困層はなぜ貧困から抜け出せないのか、援助は有効なのかむしろ自立を阻害するので有害なのか、経済的援助を行う場合に常に問題となる議論を、大所高所の概念論ではなく自らが集めた実証的データをもとに展開していく本。横糸に張られる数々のデータは、著者たちがおこなった対照実験が数多く含まれており、織りなされる論の強度を高めている。そして縦糸に張られる論は、援助の長所と短所を貧困の罠に陥った人の思考パターンに即しており、論説をしなやかなものとしている。著者らは貧困から抜け出しにくい原因として、1)貧乏な人はお金だけではなく必要な情報が欠乏しているか誤った情報にとらわれていること、2)貧乏な人は判断をすることで負うリスクが裕福な人にくらべ多すぎること、3)貧乏な人は市場で提供されるさまざまなサービスにそのリスクゆえ割高な負担を強いられていること、4)援助の失敗はしばしば具体的な政策設計の欠陥のせいであること(その原因を著者らは、無知ignorance、イデオロギーideology、惰性inertiaの3つのIに帰している)、5)援助する側が先入観から貧困者に対してもつ負の期待がしばしば自己成就的な予言となってしまうことを挙げている。
通読してこれは開発途上国貧困層に限定した議論ではなく、上の縦糸となる論は現在の日本でも通用するものだと痛感した。時間のない人は最後の第10章と結論を読んでみるだけでも本書のよさがわかるだろう。

貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える