トクヴィルの憂鬱』(?山裕二著、白水社)を読む。
フランス革命後のロマン主義時代を生き抜いたアレクシ・ド・トクヴィルの自己の理想と現実の隔たりからくる憂鬱がどのようなものであったのかを政治・文化情勢の変遷とともにみごとに描き出している。旧身分制がこわれ、自由になった反面自らが「何者でもない」ことを日々つきつけられている時代においてロマン主義を社会の中での立身出世、信仰の復興、名誉と承認を求めての政治活動という複眼的視点から描いていることに加え、彼の書簡や旅行記などが引用されていることが本書をまるで大河小説のような読み応えのあるものに仕上げている。本書を読むとフランス革命という事件は、断絶を生み出したというよりは、その後長期にわたり一つの心性を生み出し続けた社会的衝撃波だったということをあらためて感じる。アメリカへの旅行で彼が感じた「憂鬱な喜び」、平準化する社会で他人志向となり矮小化する自己の欲望が若い世代に深い病根となっているという彼の診断、そしてこの世代が従来の宗教にかわる新たな信仰として「人類の信仰」にたどり着く際のさまざまな問題が描かれ、最後に反体制派としてのトクヴィル「群衆」を嫌悪しつつ失われた「公衆」の形成をめざした政治的軌跡を追っている。
混迷と閉塞の中で「何者でもない」若者が苦悩していたのは過去のことではなく、現実の問題であるからこそこの国のこの時代に生きた悩めるロマン主義者が非常に身近に感じられる。

トクヴィルの憂鬱: フランス・ロマン主義と〈世代〉の誕生

トクヴィルの憂鬱: フランス・ロマン主義と〈世代〉の誕生