『世界を救う処方箋』(ジェフリー・サックス著、早川書房)を読む。
世界の貧困問題の第一人者が祖国アメリカが抱える問題を指摘し、その処方箋を提示する本。冒頭に「アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある」と指摘し美徳の衰退を問題視している。これが根本原因だとするかなり治療は難しいし、処方箋も精神論的になりそうだと感じたが、本書後半で提起されるのも中庸の徳を強調し、共感(これには自己、仕事、知識、他者・・・そして世界への共感と列挙される)を説くものとなっている。正論であり、ごもっともなことなのであるがそれが困難な病理についてもっと掘り下げるべきなのではと感じてしまう。本書はむしろさまざまなデータを提示して自国の病理の一端を示している前半の方が読み応えがある。得た富を適切に分配しかなえている歪んだ自由市場、適切な公共政策をとれなくなっている政府、より深くなっている国内の価値観の分裂、グローバリゼーションにうまく対応できていない経済、コーポレートクラシー(企業統治体)に牛耳られている政党政治、インターネットで情報共有よりも情報分断されている社会など、こうした問題を他山の石として日本の問題を考えてみて、自分なりの処方箋を書いてみるのがいいかもしれない。

世界を救う処方箋: 「共感の経済学」が未来を創る

世界を救う処方箋: 「共感の経済学」が未来を創る