ラカンの殺人現場案内』(ヘンリー・ボンド著、大田出版)を読む。
殺人現場写真という通常は目にすることがない写真をラカン理論を応用して読み解いてみようという本。対象となるのは1955年から1970年の間に英国で起きた殺人事件の資料なので、科学捜査が発達した現在から見ると古風になっている点はあるが、それだけに人間の肉眼がとらえた写真ということで興味深い。著者も注意しているが、ラカン的に解読することで捜査に役立つとか何らかの明確な結論を引き出すことを目的にしたものではない。本論は、ラカンの三類型にしたがい、倒錯の犯罪現場(第3章)、精神病の犯罪現場(第4章)、神経症の犯罪現場(第5章)の3つからなる。第3章では、「倒錯者は、ある種の防衛手段として、つまり何らかの象徴的・魔術的な力をもつものとしてフェティッシュを持ち歩き、それを殺人現場という「絵」に添えることがある」こと、そして「一般常識として真実ないし良識とされているものを傷つけようとする」として現場写真を読み込む。第4章では、破綻した意味の関係の網の目を紡ごうとする精神病者の試みを現場写真の中に発見していく。第5章では神経症者が示す不安に対する防衛(抑圧と反動形成)の痕跡を嗅ぎ当てる。巻末には饒舌なジジェクにしては短い解説が花を添えている。
注意:殺人現場の写真だけにそれなりの写真が挿入してあるので、この手の写真を受けつけない人は手に取らない方がよいでしょう。
関連する本:『斜めから見る』(青土社)、『ラカンはこう読め!』(紀伊國屋書店)、『ラカン精神分析入門』(誠信書房

ラカンの殺人現場案内

ラカンの殺人現場案内