『数学で生命の謎を解く』(イアン・スチュアート著、ソフトバンククリエイティブ)を読む。
生物学の歴史で起こった五つの革命(顕微鏡の発明、生物の体系的分類、進化論、遺伝子の発見、DNA構造の発見)に次いで起こっている第六の革命、すなわち数学による生物学の変貌について解説する本。ダーウィンの時代の進化論にとって欠かせなかったのは地質学の知見だったが、現在の進化論的議論には数学モデルの構築が必要であることや1960年代には細胞生物学には化学が重要な基礎であったが、現在ではコンピュータ科学が加わりバイオインフォマティクスが誕生し、高度な数学的処理を駆使してタンパク質の折りたたみ構造の解析が進んでいる。生物の体表面の模様から胚発生まで数学モデルを応用しコンピュータでシミュレートする研究や生態系における複数の生物の解析を紹介しながら、著者は数学モデルでは、ある一定の単純化が施されるが、「重要なのは、そのモデルから何が予測されるかであって、何が省かれているかでは」なく、「そのモデルが役に立つ洞察や情報を与えてくれるかどうか、そして与えてくれるとしたらどんな状況においてかである」と述べる。登場する数学理論は高度なものが多いが数式は最小限に控えられており、生物学のあらゆる分野で進行しつつある数学革命の熱気を感じることができる。
関連する本:『生命の数理』(共立出版)、『数理生物学入門』(共立出版)、『進化のダイナミクス』(共立出版)、『生物系統学』(東京大学出版会

数学で生命の謎を解く

数学で生命の謎を解く