『人はお金だけでは動かない』(N.ヘーリング、O.シュトルベック著、NTT出版)を読む。
表題からすると、人は経済学での前提となっているホモ・エコノミクスではないことを示す行動経済学をとりあつかった本のように思えるが、本書はそれだけではない。経済学がどのような変貌をとげつつあるのかを豊富な実証実験に関する議論を示しながら説明している。人間の経済合理性についていえば、冒頭に書いてあるように「いかに公正に、あるいはいかに自分本位に行動するかを操る別の重要な要素は、わたしたちがどんな制度の枠組みのなかで動いているか」なのである。これについて労働市場(第3章)や、職場の男女関係(第4章)、宗教と経済(第5章)、経営者の判断(第10章)、オークション(第11章)、スポーツ(第12章)など多岐にわたる話題が詰め込まれており、飽きることがない。なにより警鐘的なのは第14章で、経済学者の助言には眉につばをつけて聞く方がよいというものだ。学術誌の信頼性にも関わることが述べられており、まずここを最初に読んでから自分の興味のある章を順次読み進めていくのがいいかもしれない。
関連する本:『ヤバイ経済学』(東洋経済新報社)、『予想どおりに不合理』(早川書房)、『不合理だからすべてうまくいく』(早川書房)、『人は意外に合理的』(武田ランダムハウスジャパン)、『経済は感情で動く』(紀伊國屋書店

人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生

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