『寅さんとイエス』(米田彰男著、筑摩書房)を読む。
映画『男はつらいよ』の主人公寅さんとイエス・キリストという一見無関係にみえる両者の共通性を考察しながら、功利性とは離れた無用性の知恵を語るユニークな本。聖書は子どものころから折に触れて読んだり、イエスのエピソードを聞かされていたが、『男はつらいよ』は何年か前BSで48作品が放映されたときに視聴したのが最初だった。その時イエスとの共通性にはまったく思いもよらなかったのだが、こうして並べられるとなるほどと感じる。読んでみてよかったのは、寅さんの聖性に気づくというよりは、イエスの人間くささをより実感できたことだった。聖書の訳語についても随所でイエスが実際に語った現場に即したかたちで考察されており、臨場感がよく伝わってくる。改めて聖書の面白さと深さを教えられた。構成は4章からなり、それぞれ「人間の色気」、「風天」、「つらさ」、「ユーモア」を主題に両者の人間性が語られる。「人間」の狭さにとらわれた「法」を無化して、目の前の梁を自覚させる点で両者は共通している。そしてなにより素晴らしいのは二人とも他者との言葉のやりとりを通じて私たちの心のなかに革命を起こさしめるところなのだ。

寅さんとイエス (筑摩選書)

寅さんとイエス (筑摩選書)