『進化という謎』(松本俊吉著、春秋社)を読む。
先日ちくま新書の『哲学入門』(戸田山和久著)を読んだ際、デネットやステレルニーの議論が出てきたのをきっかけに本書を読みました。第1章は、これまでの進化論を中心とした生物哲学の潮流をコンパクトに俯瞰する内容です。進化心理学や脳神経科学の知見が集積した現在から見ると、遺伝か環境かという70年代初頭の議論を今振り返ると、そういう時代もあったのだという感じを強く持ちます。先の『哲学入門』と併せて読むのがお薦めです。第2章では、進化において適応の重要性をネオダーウィニズム以外の説を紹介しながら説明していきます。この中で、適応主義には、(1)経験的適応主義、(2)説明的適応主義、(3)方法論的適応主義の3つがあり、各論者がどこに位置して、相手のどこを批判しているかを整理して説明されており、見通しのいい構成になっています。第3章では、自然選択が作用する単位はどこかについて論ぜられます。遺伝子選択説の問題が中心になっており、それ以外の対象についての説明が少ないのがちょっとさみしいところですが、遺伝子が選択の主体であることは揺るぎないことでしょうから、論争の内容をつかむのには十分です。本書を読み通すと、因果関係の存在と認識についての哲学という大きな問題が底流にあることが分かります。
関連図書:『セックス・アンド・デス』(K.ステレルニー、P.グリフィス著、春秋社)『進化論の射程』(E.そーバー著、春秋社)『進化の弟子』(K.ステレルニー著、勁草書房)『意味と目的の世界』(R.G.ミリカン著、勁草書房

進化という謎 (現代哲学への招待Japanese Philosophers)

進化という謎 (現代哲学への招待Japanese Philosophers)