『人間と動物の病気を一緒にみる』(B.N.ホロウィッツ、C.バウアーズ著、インターシフト)を読む。
獣医学と医学、どちらも生物の疾患を目的とする応用医学なのに両者の交流はまったくといってよいほどありません。飼い主は自分の病気を獣医に相談することはありませんし、医者ははなから動物は(実験で)殺すものであり、治療するものとは思っていません。しかし本書の著者は本業は心臓外科医ながら動物の病気の本質が人間と変わることがないことを次々と指摘していきます。日本からはじめて報告されたたこつぼ心筋症と動物が捕獲されたときに示す捕獲性筋疾患にはカテコラミンというホルモンの共通した作用があること、危機的状況で人間も動物も失神することがあるのは進化的にみたメリットがあること、動物もヒトもがんにかかるし、その治療法は動物のがんから得られる可能性があること、動物界まで視点をひろげれば同性愛は”不自然”ではないこと、薬物中毒や過食に肥満、拒食は動物にも見られること、自傷行為は人間だけに見られる行為かと思いきや、動物にもみられ合理的な理由があり”過剰グルーミング”だという驚くべき話、集団行動をとる動物(人間も含め)は、集団での処世術が要求され、そこで”いじめ”も発生しうることなどなど目から鱗の話題が満載です。比較動物学、進化医学の視点にたてば、人間の病気がもっとよく見えるという本です。
著者が臨床医学畑の人だけに遺伝子などの難しい話よりずっと実際的でわかりやすいのも楽しく読める理由でしょう。
インターシフトさん、またヒットです。

人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想

人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想