『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ著、柏書房)を読む。
1450年頃グーテンベルクが活字による印刷を行い、聖書を初めとした多くの書物の情報が普及し、やがて宗教改革を生む下地になるというのは世界史の重要なポイントですが、重要なものが欠落しています。技術の発明と普及の媒介をする人々の活動です。この本は、その媒介たる役割を当時のヴェネチツィアが担っていたことを教えてくれます。十六世紀前半のヴェネツィアでは、ヨーロッパ中で出版された本の半数近くが印刷されていたそうです。印刷業から製本、販売がどのように行われていたか、儲かる商売だったのかといったことなども当時の記録が教えてくれます。何よりラテン語ギリシャ語だけではなく、ヘブライ語アルメニア語など様々な言語が印刷されており、宗教についてもコーランまで印刷されていたそうで、当時の国際都市の活況が活き活きと描かれています。また書物の内容も宗教や学術研究など高尚なものからポルノに至るまで非常に範囲が広かったのです。また地理を初め軍事情報など国家の存亡に関わる情報、建築、楽譜、医学など実に多くの貴重な情報が本になったのは現代と同様であり、その価値は現在より高かったことでしょう。しかしヴェネツィアがその中心を占めることができたのも大航海時代の幕開けまでで、地中海世界が西へと開かれることで印刷製本の中心はアルプス以北へと移っていきます。印刷製本から見たヴェネチツィア小史といった好著です。

そのとき、本が生まれた

そのとき、本が生まれた