『シグナル&ノイズ』(ネイト・シルバー著、日経BP社)を読む。
多岐にわたる大量のデータ(ビッグ・データ)を扱うことが可能になって情報の重要性がますます声高にとなえられていますが、そのデータを読み解く上で確率論的思考が欠かせないことを説いた本です。未来を予測することは科学ではもちろん、社会の様々な状況において必要なことです。そのために私たちはさまざまな情報を集めるのですが、著者は大量の情報が溢れている現在では、本当に予測に必要な情報(シグナル)がノイズに埋もれてしまう傾向が強まっていることに注意を促します。そうした失敗例として著者はまずバブル崩壊の事例をあげ、その失敗の原因を考えていきます。私たちが「知っていること」と「知っていると思っていること」を峻別すること、複雑なモデルと単純なモデルのそれぞれの長所と短所を弁えること、そしてなにより客観的になることの大切さを説きます。さまざまな偏見や主義から私たちは客観的になることがなかなか困難なのですが、事実に向き合う態度として著者は、「キツネ思考」と「ハリネズミ思考」というパターンを示しながら解説していきます。前者は、著者が推奨する思考法で、これが確率論的思考をベースにしたものであることが読み進めるうちにわかってきます。ここで著者のいう確率論は、ベイズ確率なので、頻度主義についてはかなり不当に貶められている点があるので、頻度主義による統計的思考については他書できちんと理解しておいた方がいいでしょう。本書が面白いのは、とりあげる事例が経済予測、選挙の予測といったものから気象や地震の予測、感染症の予測まで幅広く、ベイズ的思考法の考え方として野球やポーカー、チェストいった例を取り上げてわかりやすく解説している点があるでしょう(とはいっても野球やチェスに疎い私はちょっと大変でした)。同じ自然科学でも、地震の予測にくらべ気象の予測(気候変動とは別です)の精度が格段に上がっていること、そしてどうしてその二つで差があるのかも読んでいて非常に面白いところです。予測というとコンピューターの独擅場と思う人もいるかもしれませんが、本書を読むと、情報の変化を大局観をもってとらえてその中から本質的なところを洞察するという点で、確率論的思考を身につけた想像力豊かな人間こそが欠かせないということがわかります。

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」

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