『神と国家の政治哲学』(マーク・リラ著、NTT出版)を読む。
西欧における政治と宗教(キリスト教ユダヤ教)の関係、政治はいかにして神学と格闘し、分離しようとしたかを辿る著作。17世紀から起こった新しい哲学によって神の啓示や宇宙論的な思索によらず、あくまでも人間の概念用語で政治について語るという運動をみていく。これは一見すると政治から神を駆逐するという人間の理性の勝利の歴史のようにとられるかもしれないが、著者はここに脆さを見る。民主主義政治において語られてきた「世俗化」、「近代化」、「魔術からの解放」などは、「おとぎ話」であり、これを好むのは「こども」に他ならないと冷徹だ。西欧における「超越神」(内在する神でもなく遠く離れている神でもない)という考え方がメシアをめぐる政治神学にどう反映していたか、そして近代の哲学はどう対応してきたか。この歴史をホッブスからルソー、カント、ヘーゲルへと辿る。そして二つの戦争において葬ったはずの政治神学がどのように甦ったのかが描かれる。原題の「死産した神」の意味もこの過程でわかる。一神教の文化も歴史もない日本では、西欧の政治神学や政治哲学を巡る議論は馴染みが薄いかもしれないが、超越した存在が決断を下す政治という営みにどう影響を及ぼすのかと考えれば普遍的で今なお生きている問題である。

神と国家の政治哲学 政教分離をめぐる戦いの歴史 (叢書「世界認識の最前線」)

神と国家の政治哲学 政教分離をめぐる戦いの歴史 (叢書「世界認識の最前線」)