『友達の数は何人?』(ロビン・ダンバー著、インターシフト)を読む。
言語の起源について、グルーミングに代わる効率的なコミニュケーション手段として登場したものだという説を提唱している進化心理学者による楽しいエッセイ。冒頭から脳は一雄一雌関係を維持するためにいちばん「頭を使って」いるのではないかと面白い仮説から始まる。これは一夫一婦制を維持する動物は、乱婚する近縁の種より脳容量が大きいというデータから出ている。そして霊長類の脳の新皮質の大きさは集団内の雌の数に比例し、大脳辺縁系の大きさは雄の数に比例するという。集団を形成して生活する霊長類では、社会的に良好な関係を作れるかが子育てにとって重要なので、雌では新皮質優位であり、これに対して雄は順位争いに汲々とするので、辺縁系が優位になるという。これはちょっと男性諸氏にとっては承伏しがたい仮説かもしれない。またヒトの色覚についても女性はX染色体上にある赤と緑の錐体細胞の遺伝子の変異により男性よりもより複雑な色調を認識できる五色視が可能になるという。これは色覚に対する性差を実際に生むのだろうか、興味深いところだ。
こんな興味のつきない話の他に、音楽の起源について進化の副産物だけではないだろうという話や、感染症のリスクが高いところでは、接触を避けるためにより小集団に別れて生活することから言語の差異が生まれる結果、熱帯では多くの異なる言語がみられるという話、心の理論における志向姿勢がヒトでは6次レベルまでの高階となり、これが文学作品や宗教において重要な機能を果たすこと、また神の起源についてもこの点から説明可能ということも述べられている。なぜヒトの集団で宗教が生まれるのかについて、マルクスデュルケームの説を紹介しつつ、高次の志向姿勢が理解できることで「神がわれわれにかくあれと望んでいる」ということを信じさせることが可能になり、集団中のただ乗りを排除して結束を強めるために有効であると説明している。著者はこうした機能は集団がある程度以上に大きくなると、機能不全に陥る危険性があることも指摘している。ドーキンスが宗教を排撃するのもこうした点に対してであろう。宗教の進化心理学的説明は本書でも一番面白かったところで是非一読をお奨めしたい。

友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学

友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学