『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』(G・ギーゲレンツァー著、インターシフト)を読む。
私たちは毎日の生活で直感を働かせている。お店で商品を選ぶとき、恋人の嘘を見抜くときなどなど。こんな直感は客観的に評価しにくいからしばしば「女の直感」といわれ揶揄の対象となる。本書は、そんな直感が状況によっては十分合理的であり信頼性もあることを論じた本である。本書では直感(gut feeling)(一瞬で意識にのぼる判断)、直観(intuition)(基になっている理由が自分でもよくわからない判断)、勘(hunch)(行動に移すに足る確固たる判断)と使い分けているが、直感は単純な経験則(ヒューリスティック)からなり、それは脳が進化したことによる能力だとしている。本書ではその経験則とはどんなもので、これが有効に働く場合はどんなときかを説明している。ヒューリスティックについては、カーネマンとトヴェルスキーが非合理的なものとして指摘しているが、著者は有名な「リンダ問題」を取り上げ、これに反論をして、人間の知性が働く場は、「確実性が人工的に構築された論理システムの中ではなく不確実な世界」であり、そこを無視した議論はおかしいと説く。同じく人間の非合理性で取り上げられるフレーミングについても、「単なる論理が見落とした情報を伝えられる」ものなのだと指摘しており、なるほどと思わせる。素人の直感は、専門家の判断をしのぐこともある例を示すが、同時に直感が有効に働くのは、「将来の予見が困難である場合、そして情報が限られている場合」であることを強調している。また個人の無知からすぐれた集合知が生まれることも例示している。後半では道徳的判断との関連が論じられており、進化心理学などの知見から道徳哲学に新たな切り口を与えるもので興味深かった。

なぜ直感のほうが上手くいくのか? - 「無意識の知性」が決めている

なぜ直感のほうが上手くいくのか? - 「無意識の知性」が決めている