『かたち』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。
自然の中にはどのようにして創られたのかと感銘を受ける造形美が見つかる。太古から人はそれを説明するために神の意志をそこに見いだし時には崇拝の対象となった。やがて生物における造形美は、ダーウィンの理論から自然選択により磨きをかけられ完成したものと考えるようになった。しかし自然の中の造形には神はもちろん自然選択も必要とはされず、自然の数理からあたかも方程式を解くように導かれ創られるものがあることを著者は説く。「驚くほどわずかな数の、それ自体は際だって単純な材料からしばしば、自然界に見られる複雑なパターンが生成される」と。最初にシャボン玉の数理を説明し、泡が空間を占める際に自己組織的に構造ができていくことを示す。つづいてベロウソフ=ジャボチンスキー反応という面白い化学反応を発見者のエピソードも交えながら紹介しつつ動的平衡を解説する。捕食者と非捕食者との生態学的平衡や心臓の脈拍、細菌のコロニー形成などにも同じメカニズムが認められることを示していくくだりはスリリングだ。次に豹や蝶の文様形成におけるチューリングの洞察を紹介し、反応=拡散系によるプロセスを説明していく。後半では最初に取り上げた蜂の巣の形成に再度触れつつ、各固体が局所的なルールに従えば全体の青写真はわからなくても一定の構造ができうることが説明される。植物の葉序ではよくとりあげられるフィボナッチ数についても触れ、ここにもチューリングのメカニズムが作用していることが示される。最終章では受精卵からの発生がとりあげられホックス遺伝子の機能とパターン形成が解説される。
本書は三部作の第一巻とのこと。かなり読み応えのあるシリーズになりそう。

かたち: 自然が創り出す美しいパターン

かたち: 自然が創り出す美しいパターン