黄金比はすべてを美しくするか?』(マリオ・リヴィオ著、早川書房)を読む。
ユークリッドが外中比として定義したいわゆる黄金比から始まりフラクタル幾何学に至るまで、いたるところに顔を出すΦという不思議な数を巡る数学エッセイ。「黄金分割」という名前の起源についての話題をとりあげながら、ピラミッドや様々な芸術作品に黄金比が見つかるという説を丁寧に検証しつつ、恣意的なところもあるときちんと指摘しており物理学者らしく手堅くまとめている点は好感がもてる。しかし最終章で紹介されるベンフォードの法則(自然界でみられる多くの数値の最初の桁の分布には偏りがあるというもの)に触れると、数は実在するというプラトン主義的思考に真実味を感じてしまうし、至る所にΦの存在を見てしまうというのも頷ける気がしてしまう。これは第8章でとりあげられているペンローズタイルと準結晶のエピソードを読んでも実感できる。これに対して構成主義的な見方もあることを著者は紹介するが、たとえば黄金比の定義はユークリッド幾何学の公理に登場し、フィボナッチ数列の定義は数論の公理に出てくるなど規則は人間が生み出してはいるのに、「連続するフィボナッチ数列の比が黄金比に収束することは、われわれに強制されている」と述べつつ、「数学的対象は、架空のものであっても、実在の性質をもっている」と主張している。この実在性はどこから来るのか。私たちの数学はあくまでも私たちが認識できる宇宙を記号化したものなのか。鸚鵡貝や天空を飛ぶハヤブサの螺旋の軌跡、銀河の渦を眺めながらこの不思議にしばし酔ってみるのもいいだろう。

黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語

黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語