『流れ』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。
第一部『かたち』につづく自然が創り出すパターンについての本。第二部の冒頭では流れという自然現象が研究に値することを示したレオナルド・ダ・ヴィンチから始まる。複雑な流体の力学はあまりにも先駆的だったため、その研究が始まるのはダニエル・ベルヌーイの登場を待たねばならないのだが、絵画において流れを写し取ることについては彼の天才が発揮されていたことが紹介される。流線を描くという手法が東洋美術の手法と共通している点が指摘されているところは面白い。続いて流体力学の話題が続く。河の流れや雲の渦、台風の目から木星の大赤斑など話題が豊富だ。対流の章ではこの理論化の話が語られるが、対流が太陽表面にもあることが示唆されることからまた未知のことが多いようだ。第4章では、砂丘の形成-あの独特の縞模様がどのようにできるか-についてが語られ、初めて知ることばかりで非常に面白く読んだ。地球ばかりではなく火星の表面にも実にさまざまなパターンの砂丘の文様があり、条件を整えることでシミュレーションできるという。大きさの異なる粒子が混ざり合う場合の挙動も常識を裏切るようなことが起こることが、さまざまな条件で発生するパターンが写真とともに例示される。日本人物理学者(大山義年)の先駆的発見があったというのも面白い。続く章では、鳥や魚の群れがあたかも一つの意志をもったように動く現象について、集団内の個体が隣接する個体に対してどうふるまうか簡単な条件があれば、いくつかのパターンが生まれることが紹介される。ここは動画があるとより楽しいだろう。動物だけではなく人間の行動についても同様で、そこから渋滞や道の形成を説明できる。パニック時の災害(この時の人の動きを群衆乱流というようだ)を防ぐためにもこの知識が役に立つことが触れてある。最終章ではまだ解明できない乱流という複雑系が語られるが、ゴッホの『星月夜』と恒星V838モノセロティス。の写真が並べられているのが印象的だった。
前著は400頁を超えていたが、今回は300頁未満の本で比較的早く読める。期待される第三部は『枝分かれ』(仮題)で来年2月発行予定とのこと。待ち遠しい一冊だ。
本書を読んでから『砂 文明と自然』(築地書館)を購入した。こちらも面白そう。生物の群れについてさらに数理生物学的に書かれているのは『生物にとって自己組織化とは何か』(海游舎)

流れ―自然が創り出す美しいパターン

流れ―自然が創り出す美しいパターン