『バイオバンク』(F.ベリヴィエ/C.ノワヴィル著、文庫クセジュ)を読む。
人間の生物試料と関連データを収集・貯蔵する組織についての概説書。「バイオバンク」という用語自体はまだ安定したものではない(「ビオテーク」や「生物資源センター」などともいわれる)と断りつつ、これを「組織的なやり方でしばらくのあいだ、生物試料(細胞、組織、尿、遺伝子、DNAやRNAの断片など)とデータ(病人とその家族、またはある人口集団全体に関する臨床データ、家系のデータまたは生物学的データ、ライフスタイルに関係するデータなど)を医学研究の目的で集める、民間または公的なインフラストラクチャー」と定義している。最初にこの組織体が医師や研究者による試料収集はもとより博物学的な淵源をもつことを述べつつ、原題のそれは規模の点、体系的な点で大きく異なっており、なによりも収集管理活動自体が職業化していることを指摘する。そして法的整備がその活動の後を追いながら整備されつつあり、研究の進歩と人格の保護、連帯と個人主義、営利市場と無償を有機的に関連づけることが重要であると述べている。試料収集にあたっては、その同意をどの範囲でとるのか、撤回する場合の権利、試料から得られた情報の返還はどうするのかなどの問題点、試料自体の所有権の問題が述べられる。所有権が財産として他者を排除し、自由に処分することを認めるために、公共的な知財を所有権というくくりで管理するのは困難なのだ。結論として著者は試料の提供者を単なる供給源ではなく、それを利用した研究プロセスの関与者であり受益者としてとらえること、試料の採取から研究の結果に至る連続的な活動は独占的な占有権を主張できるものではなく、公共の不利益をもたらさないようなアクセスを認めるべきことが必要だとしている。

バイオバンク ─ 先端医療を支えるインフラの現状と課題 (文庫クセジュ963)

バイオバンク ─ 先端医療を支えるインフラの現状と課題 (文庫クセジュ963)