『頭のでき』(リチャード・E・ニスベット著、ダイアモンド社)を読む。
『木を見る西洋人、森を見る東洋人』で有名なアメリカの心理学者による、知能は遺伝よりも環境によって規定されると主張する本。知能を規定する要因として遺伝も環境もともに重要であるというのが一般的に受け容れられている見解だと思うが、本書は遺伝重視の立場を是正するという立場から書かれているので、環境要因の重要性を強調する構成となっている。ここで批判的に取り上げられているのが双生児研究の方法論で、双生児がそれぞれ引き取られる養育先の社会経済的レベルに差があまりないと環境要因の差は効いてこないので、遺伝要因が重視されがちになるという点を強調している。著者が特に環境要因を強調するのも、日本よりも貧富の差の大きなアメリカ社会での問題が背景に潜んでいるからだろう。著者は間違いなく学校教育はIQを上昇させること、教育手法の重要性を指摘している。また時代を経るごとにIQの上昇、すなわち世代間の差が認められていることについて、テレビやテレビゲームなどの普及について言及している。この点は面白い。最近もコンピュータソフトの利用による流動的知性の向上が認められるという研究報告がなされていたから、知能の社会性ということを考える上でも興味深いことだと思った。
後半は、東洋人と西洋人の認識の差が特に自然科学の分野でどういう差がでてくるかとか、アメリカ社会で特に成功しているユダヤ人のIQが高いことの原因、子供の知性を高める方法をめぐる考察が展開されている。
環境要因を強調する内容だが、遺伝率のことなどを丁寧に説明している点が効いて全体にバランスがとれている印象を与える。またアメリカ社会での黒人と白人の差別の根深さをあらためて知らされる。

頭のでき―決めるのは遺伝か、環境か

頭のでき―決めるのは遺伝か、環境か