『女の老い・男の老い』(田中冨久子著、NHKブックス)を読む。
副題に「性差医学の視点から探る」とあるように、医学的な性差、主に性ホルモンの男女差からみた老化現象について解説した本。医学的問題としては、更年期に始まり、認知症、虚血性心臓病、骨粗鬆症など一般にも馴染みの深い疾患はもちろん扱われていることに加え、睡眠における性差や、サルコペニア(筋肉減少症)など最近の知見も取り入れてある。さらに性ホルモンの出現について生物の系統発生学的な知見も紹介されている。
 男性は女性に比べて寿命を縮めやすい環境が影響しているが、それでもなお女性の方が男性より約4年ほど長いのかという疑問に対して、女性はエストロジェンによって動脈硬化などから保護されていることが第1の要因であるが、著者はさらにエストロジェンと長寿遺伝子(具体的にはdaf-12daf-16など)の関係があるのではないかと指摘しているのが興味を引く。生殖細胞系列が生涯にわたって存在し続ける男性と、それが人生半ばで消失する女性、平たく言うとずっと子供を産ませることができる男性と、子供を作れない体になる女性の差が老化ひいては寿命を生物学的に規定しているのではないかという仮説は今後老化が治療可能か、治療すべきかということを考える上で重要だろう。女性についてはホルモン補充療法がすでに治療的手段としてあるが、男性についてはお寒い現状であるという差については、文化的社会的観点からみることで別な面白い本ができそう。とにかく月並みなことだけど、よく粗食でよく運動して肥満しないようにすることは老化と長寿の秘訣であるようだ。

女の老い・男の老い 性差医学の視点から探る (NHKブックス)

女の老い・男の老い 性差医学の視点から探る (NHKブックス)