資生堂という文化装置』(和田博文著、岩波書店)を読む。
『戦前昭和の社会』(講談社現代新書)が面白かったところに出版されたので、大部な本だったが購入。 副題に1872-1945とあるように、明治五年に資生堂が洋風調剤薬局として開業されてから敗戦までの軌跡を追いながら、日本のモード、ファッション、食文化などの洋風化がどのように進んでいったかを描いた本。資生堂という日本を代表する化粧品会社を切り口にしているので、当然その対象は女性が中心だが、男性のファッションや身だしなみについても紹介されている。銀座の資生堂というまさに文化装置を通して描くことで、洋装、洋髪が生活の一部となる過程が鮮やかに浮かび上がる。これを読むと銀座という当時のモードの最先端地区ですら洋装が普及するまでには時間がかかっている。日本女性が和装から洋装に乗り換えることは、社会がそれをどう許すかということだったのだ。読んでいて楽しいのは、当時のファッションや化粧品に関する街角の写真や広告が豊富に掲載されていることである。どうしても戦前というと暗いイメージばかりが先行するのだけど、この本を読むと世界恐慌前の1920年代というのは実におしゃれな時代だったのだ。30年代後半から日本が戦争へと突き進み、国民全体に質素倹約が強要される状況で、資生堂がなんとか限られた物資で女性のおしゃれを支えようとする章が印象的だった(もちろんそれは商売をする企業としては当然の活動だろうが、それでも女性のきれいになりたいという欲求がないと成り立たない)。どの時代でも女性にとっては粧うということは贅沢ではなくふつうのことなのだ。

資生堂という文化装置 1872-1945

資生堂という文化装置 1872-1945