『経済成長は不可能なのか』(盛山和夫著、中公新書)を読む。
ピンチの時にはチャンスがあるとすれば、震災後の日本にも経済成長のチャンスはあるのか。デフレに財政難、円高少子化という四重苦を抱えた日本への処方箋を示した本。著者は行財政改革でのムダ削減で経済が活性化されるということの誤りを指摘し、どういう金の使い方が「相対的にムダ」なのかを具体的に議論せずにただムダ削減を進めても意味がないと指摘する。続いて失われた二十年の元凶の一つに日銀の通貨供給不足があったかどうかについて検討しつつ、供給サイドだけではなく需要サイドの問題も考慮する必要を指摘している。著者はプラザ合意以後円高に誘導されたときにその長期的影響を政府が見誤っていたことが不況を長引かせた一因であると述べている。そして少子化については、これを仕方のないことだとか望ましいことだという議論の誤りを指摘し、積極的に取り組むべき施策があることを強調している。要は使うべきところにはしっかり借金をしてでも投資することが重要であり、それを見きわめるのが政府の責務であるということである。財源として現時点では増税ではなく国債でまかない、国民経済の支出構造を変化させることにより成長を促進すべきだと主張している。著者は教育や科学技術、介護や医療、育児などの将来への投資は経済的効果を越えた社会的意味をもっており、いたずらに削減すべきではないと述べている。未来への希望を創設することの重要性を提起している論点は非常に意義あるところだと感じた。