『敗北を抱きしめて 上』(ジョン・ダワー著、岩波書店)を読む。
日本は未曾有の震災に見舞われ、「戦後」ならぬ「災後」という言葉も出てきた。ならば時代が一変した「戦後」の姿はどうだったのかをもう一度知りたくて手に取ったのがこの本。著者は努めて「敗戦のあとで日本の人々が直面した苦難や課題を伝え」、「敗戦にたいして日本人がみせた多様で、エネルギッシュで、矛盾に満ちた、すばらしい反応を描」いたという。本書はそのとおり戦後の一般国民の姿がさまざまな角度からときに醜く、ときに美しく描かれている。人間とは矛盾したものが同居しているのが実態であり、誰かがいうように戦後国民が一様に美しく苦難に耐えたわけではないのだ。いい歴史書というものは決して一面的な記述をしないものだということが本書を読むとよく解る。勇敢さと卑屈さ、清廉さと狡猾さ、美しさと醜さが渾然と同居していたのが敗戦後の日本だった。個人的には上巻では第四章「敗北の文化」に描かれた女性の置かれた困難は初めて知らされたことも多く敗戦の現実の厳しさを改めて思い知ったのがもっとも印象深かった。

敗北を抱きしめて〈上〉―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて〈上〉―第二次大戦後の日本人