『シグナル&ノイズ』(ネイト・シルバー著、日経BP社)を読む。 多岐にわたる大量のデータ(ビッグ・データ)を扱うことが可能になって情報の重要性がますます声高にとなえられていますが、そのデータを読み解く上で確率論的思考が欠かせないことを説いた…

『ささめく物質 物活論について』(奥村大介著、現代思想vol42.1:116-129,2014)を読む。 2014年を迎えて初めて読んだ論文です。物質を文明の力で馴致してきたはずの私たちが、思いがけなくもその物質たちに牙を向けられた震災から今年で三年になります。「…

『宇宙が始まる前には何があったのか?』(ローレンス・クラウス著、文藝春秋)を読む。 本書は最近二十年間の宇宙論についての進歩を解説し、今宇宙のどのようなことまでが明らかになっているのかを教えてくれますが、それ以上に著者の科学者としての姿勢が…

『人質の朗読会』(小川洋子著、中央公論社)を読む。 2012年の本屋大賞を受賞した小説を1年遅れ(発刊からは2年)で読む。海外ツアーに行った邦人8人が現地のゲリラによって人質になり、そのまま帰らぬ人々となった事件の後で、公開された8人の朗読会の記…

『記憶のしくみ』(ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル著、ブルーバックス)を読む。 記憶は脳のどこでどのような仕組みでつくられるのかを基本的なことから最先端のことまで解説した本です。著者の一人、エリック・R・カンデルは、アメフラシを…

『自己が心にやってくる 意識ある脳の構築』(アントニオ・R・ダマシオ著、早川書房)を読む。 意識と肉体の関係は近代哲学の始まりから哲学の喉元に突き刺さった小骨でした。哲学を語り出すときに声を出すたびにこの小骨は痛みを生みます。それと一緒に問い…

『自然を名づける』(キャロル・キサク・ヨーン著、NTT出版)を読む。 著者はアメリカの進化生物学者ですが、母は日本人ということで、幼い頃食卓にさまざまな魚がのぼったことや飼っていた金魚の想い出などが本書の終盤で語ら、著者の”魚類”への愛情が告白…

『人類はどこから来て、どこへ行くのか』(エドワード・O・ウィルソン著、化学同人)を読む。 アリの生物学の泰斗である著者が、生物進化の観点から他の生物にはみられない文明をどうして人間が築けたのかを考察する本です。『社会生物学』で当時の人文学に…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹著、文藝春秋)を読む。 姓に色の名が含まれている4人の友人と色の名を持たない主人公の現在と過去が、一人の友人の死の謎を探るうちに繙かれていく小説。仲のよかった友人たちから突然交際を絶縁さ…

『死と神秘と夢のボーダーライン』(K.ネルソン、インターシフト)を読む。 臨死体験とは何かを医学的に考察していく本。邦題には“神秘”という言葉があるので、死後の世界などをあつかったトンデモ本と誤解されるおそれがあるかもしれないが、死後の世界を経…

『生命起源論の科学哲学』(クリストフ・マラテール著、みすず書房)を読む。 非生命と生命の間には架橋しがたい溝があるのか。あるとすれば非生命から生命の誕生は”創発”と呼ばれる現象なのか。古くから論争されてきた問題に対して、最近の科学的知見もレビ…

『夏目漱石を読む』(吉本隆明著、ちくま文庫)を読む。 1990年から3年間にかけて行われた著者による漱石の小説についての講演をまとめた本。講演がもとになっているので、読者に語りかけるようにして書かれており、読みやすい。『吾輩は猫である』から『明…

『統計学が最強の学問である』(西内啓著、ダイアモンド社)を読む。 大量の情報が溢れ、遅滞なき意思決定が求められる現代を生き抜くには、統計の知識が必須であることをやさしく説いた本。著者は疫学が専門で医学生物学畑なので、その分野の人にとってはし…

『夫婦格差社会』(橘木俊詔書、迫田さやか著、中公新書)を読む。 『日本の経済格差』、『女女格差』の著者が、格差社会化しつつある日本で、個人の所得ではなく家計の所得に注目すべき、特に世帯の妻がどれくらい稼ぐのかに注目すべきであることを様々なデ…

『脳科学革命』(ポール・サガード著、新曜社)を読む。 人生にとって、仕事と遊びと愛が重要であるというのが本書の基本的メッセージですが、これを考えるにあたって脳についての生物学的知見にもとづくことがもっとも重要で実りも多いのだというのがポイン…

『思い違いの法則』(W・ハーバート著、インターシフト)を読む。 私たちは日常生活でしばしば直感的に物事を把握し判断するが、そのときに脳がトップダウンで情報を処理する”癖”(ヒューリスティック)の例を20挙げて、解説する本。ヒューリスティックにつ…

『ヴェールの政治学』(ジョーン・W・スコット著、みすず書房)を読む。 2004年にフランス政府が成立させたいわゆるスカーフ禁止法(宗教的帰属を「誇示的に表徴するもの」の着用を公立学校で禁止する法律)について、その経緯と法律が抱える矛盾を考察する…

『文明』(ニーアル・ファーガソン著、勁草書房)を読む。 15世紀まではユーラシア大陸の西の端に群居していた国々がその後世界を詩はするに至った理由は何かを六つの視点から考察する本。その六つの視点は、競争、科学、所有権、医学、消費、労働であり、こ…

『落語の国の精神分析』(藤山直樹著、みすず書房)を読む。 「落語」と「精神分析」? 「能」と「精神分析」や「禅」と「精神分析」といういかにもな組み合わせの書名はあったけれど、こんな異色な組み合わせの書名は初めてだ。でも幼い頃から落語に親しん…

『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』(D.アリエリー著、早川書房)を読む。 人はどのような状況にあるときに嘘をついたりずるをしたりするのか? 従来の経済学が教えるように便益と損失をすばやく計算して利益があればずるをするのだろうか? このシンプルな…

『不平等について』(ブランコ・ミラノヴィッチ著、みすず書房)を読む。 世界の経済的不平等や貧困について、現在だけでなく過去まで遡って考察してみようという本。「なぜなら、富と権力における差を見せつけることは、あらゆる人間社会に付きものだからだ…

『社会脳の発達』(千住淳著、東京大学出版会)を読む。 ヒトの社会行動の脳神経学的基盤(いわゆる「社会脳」)を研究する著者によるヒトの心の発達について解説した本。ヒトの脳機能の発達について、モジュール説、熟達化説、相互作用説があることを冒頭で…

『考える足』(向井雅明著、岩波書店)を読む。 大脳生理学や画像診断学、分子生物学などの進展によって急速な進歩のみられる脳科学の隆盛で人間の思考や感情を唯物的に解釈する動きがひろがる中、論理的還元的思考とは異なる”主体”的思考というものがあると…

『系統樹曼荼羅』(三中信宏著、NTT出版)を読む。 起源へと遡行すること、対象を分類することは人間の根源的な営みなのだということを豊富な図像とともに教えてくれる学際的な一冊。三章から構成され、第穵部生物樹、第II部家系樹、第III部万物樹という三幅…

『哲学の起源』(柄谷行人著、岩波書店)を読む。 前著『世界史の構造』は未読なのだが、本書はそこで論じきれなかった古代ギリシャ哲学についての論考をまとめたもので、いわば前著の補遺にあたるとのこと。著者のいう交換様式Dは、交換様式B(略取と再分配…

『ひとの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー著、インターシフト)を読む。 ヒトの持つ色覚は何のために進化したのか。なぜ私たちの目は横向きではなく前方についているのか。私たちは未来を見ることができるゆえに錯視を起こすということ。そしてなぜ…

『自滅する選択』(池田新介著、東洋経済新報社)を読む。 行動経済学の知見にもとづいて、ダイエットやダイエットの失敗、借金の返済が滞ることなどのメカニズムを双曲割引という選択バイアスから説明する本。現在と将来という異なる時点での選択については…

『天才を考察する』(D.シェンク著、早川書房)を読む。 並外れた天賦の才能というものは遺伝子で決まっているのか。遺伝か環境かという古くて新しい論争について環境の重要性を説く本。とはいっても遺伝子の発現(G)において環境要因(E)が影響する(G+E)…

『最悪のシナリオ』(キャス・サンスティーン著、みすず書房)を読む。 テロや地球温暖化による気候変動などのリスクをどう評価し、どのような対策をとっておくべきなのかについて、まず人が示す反応について理解し、次に低確率の災害リスクを伴う状況につい…

『人間 この信じやすきもの』(T.ギロビッチ著、新曜社)を読む。 教育程度が高い人でも誤った信念を抱いてしまうことがあるのは何故なのかを認知心理学的に考察した本。第一部の「誤信の認知的要因」では私たちの思考の”癖”が誤信を招きやすい性質をもった…